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婦人科・ 産科の現状と動向

広島市民病院 婦人科主任部長、産科部長野間 純

のま・じゅん。1952年生まれ。1978年、岡山大学医学部卒。岡山大学、香川労災病院、広島赤十字原爆病院などを経て、現職は、広島市民病院産科・婦人科主任部長。専門分野は婦人科腫瘍、内視鏡下手術。日本産科婦人科学会専門医、日本婦人科腫瘍学会専門医、日本婦人科内視鏡学会技術認定医、がん治療認定医。

婦人科の主ながんは、卵巣がん、子宮頸がん、子宮体がんです。卵巣がんは、一般に急速に発育するものが多く、初期段階で診断することは容易ではありません。子宮にできるがんは、子宮頸がんと子宮体がんに分けられます。どのような症状で受診し、がんと診断されたら、どんな治療法があるかについて、広島市民病院産科・婦人科の野間純主任部長に聞きました。

検診により前がん病変で見つかる子宮頸がん

子宮がんの2015年の死亡率は、全国平均が4.9人(10万人当たり)に対して、広島県は4.6人と若干低めになっています。子宮がん検診の受診率も、2014年の数字では、全国平均の32.0%に比べて、41.5%と高くなっていますが、各自治体によってかなりのばらつきがあります。一番高い神石高原町が68.3%に対して、福山市は27.3%しかありません。広島市は45.2%です(県の資料より)。

子宮頸がんは、若年で増加傾向にありますが、前がん病変からの進行は遅いことが特徴です。各自治体では20歳からの検診を推奨していますが、性交渉がある人はかかりつけ医などでの受診をお勧めします。これは、子宮頸がんが性交渉によるHPV感染と深く関係しているからです。検診を受ければ、前がん病変で見つけることが可能です。前がん病変とは「異形成」と呼ばれるもので、軽度から高度まで3段階に分かれています。

軽度~中等度異形成と診断されたら、一般に外来で細胞診により経過観察をします。軽度異形成から高度異形成になるには、時間を要します。逆に、異形成から正常な状態に戻ることもあります。がん細胞が粘膜表面の上皮内にとどまっている状態を上皮内がんといい、そのうち上皮の下にある基底膜を越えてわずかに入り込んだものをIA1期といいますが、上皮内がんやIA1期で見つけて治療を行えば完治が望めます。

子宮体がん―不正出血があれば、すぐにかかりつけ医に受診を

1970年ころまでは、子宮にできるがんのうち、90%以上が子宮頸がんでしたが、近年、子宮体がんが増加し、ほぼ同数になっています。子宮体がんの割合が増えている要因として、食生活の欧米化や脂肪の摂取量の増加を挙げる人もいます。

この子宮体がんの診断に、月経時の出血以外の不正出血やおりものは大きな手掛かりです。このため、不正出血があればすぐにかかりつけ医などで検査を受けましょう。がん以外の原因で不正出血があることがあり、出血があっても進行がんとは限りません。子宮体がんの多くは、不正出血で見つかるので、早めに受診すればそれだけ早期に見つけることができます。

子宮体がんは、性交渉とは関係なく、女性ホルモンとの関係が深いがんで、妊娠経験のない人や無排卵などの排卵障害のあった人、肥満、糖尿病、高血圧の人など、ホルモンバランスの崩れによって子宮体がんになりやすいとされています。ただし、女性ホルモンとはあまり関係のないタイプの子宮体がんもあります。

これに対して、卵巣がんは進行が早いのが特徴です。検査した時点では異常がなくても、半年後にはがんが進行していることもあります。下腹部にしこりや圧迫感などの症状があって受診したときには、すでにがんが進んでⅢ~Ⅳ期になっていることも多くあります。卵巣がんの種類によって、がんの進行については一律ではありません。最も頻度の高い漿液性腺がんの場合は、早期に腹腔内にがん細胞が広がることが多いがんといえます。早期発見に有効な方法はまだありませんが、腹部の違和感などがある場合は早めの受診が大切です。

また、卵巣嚢腫や子宮筋腫は、頻度の高い疾患です。大きさや性状によっては、経過観察となるものや、手術や投薬が必要なものもあります。手術が必要になれば、かかりつけ医から手術のできる病院などへの紹介となります。いろいろな病院やクリニックで、診察をそのつど受けているような場合、前回より増大したのか、以前と同じくらいなのかなどの経過が分かりにくくなります。画像診断(MRI、CT、PET)や腫瘍マーカーなどである程度は診断はできますが、それまでの経過が診断や治療方針の決定に有用なことも多くあります。そのように、データや超音波所見の時間経過が分かることは大変重要なことであり、そういう意味でもかかりつけ医を持つことは大きなメリットだと考えます。

初期なら円錐形手術、腹腔鏡による広汎子宮全摘手術も

次に、治療方法について説明しましょう。

子宮頸がんの前がん病変、特に高度異形成や上皮内がんの治療は、子宮頸部を円錐形に切り取る手術が主流です。この手術は、早期子宮頸がん(ⅠA1期)でも適応することは可能であり、子宮が残せるので妊娠や出産は可能です。閉経後の人は、円錐形手術ではその後の検診が難しくなるため、子宮を摘出するケースもあります。

がんの大きさや年齢、合併症にも関係しますが、ⅠA2期、ⅠB1期、ⅡA期では、子宮と膣の一部や骨盤内のリンパ節を含めて広範囲に切除する広汎子宮全摘手術を一般に行います。従来は開腹手術で行っていましたが、先進医療の認定を受けている施設では、低侵襲である腹腔鏡手術も可能です。先進医療では、手術代は自費ですが、そのほかの処置に関しては保険適用になります。手術以外の治療法としては、化学療法(抗がん剤など)や放射線治療を組み合わせることもあります。

広汎子宮全摘手術による合併症に、リンパ浮腫があります。術後にリンパ液の流れが悪くなり、足がむくむことを指します。リンパ液の流れが停滞せずに、腹腔内にきちんと流れるように術式の改良も進んでいます。

また、もう一つの合併症として神経の損傷による排尿障害が問題でしたが、神経を温存する術式で膀胱の機能がある程度維持されるようになり、排尿障害の程度や頻度も減ってきています。

ⅡB期、Ⅲ期の手術ができない患者さんには、CCRT(放射線治療に化学療法を併用する療法)が一般的です。この療法によって、従来に比較して治療成績は向上しています。

放射線療法とは、X線などの放射線を照射してがんを治療するものです。体の外からがんに向けて放射線を照射する方法と、放射線が出る小さな線源を膣と子宮腔の中に入れて、直接がんに照射する方法があります。Ⅳ期になると、局所治療のためCCRTを行うこともありますが、抗がん剤の治療が中心になります。根治は難しく、緩和治療も考慮されます。

子宮体がんはⅠ期のケースが多く、手術での治療が第一選択となります。Ⅰ期の場合は、条件を満たせば、認定施設での腹腔鏡手術も保険診療で行えます。手術が難しい進行がんの場合は、化学療法や放射線治療が適応となります。進行すると治療が難しくなりますから、出血などの自覚症状があれば早めに受診をしましょう。

卵巣がんに関しては、Ⅲ期で見つかることが多いので、治療のほとんどは抗がん剤と手術の組み合わせになります。手術でがんが取り切れても、予防のために、ほとんどの症例で術後にも抗がん剤を使います。抗がん剤治療は、TC療法(カルボプラチン、パクリタキセル)、DC療法(カルボプラチン、ドセタキセル)が一般的に使用されます。以前の抗がん剤に比べると副作用は少なく、吐き気や嘔吐についても有効な薬剤が開発されており、以前ほど問題にはならなくなっています。ただし、胚細胞腫瘍に対してはBEP療法が第一選択とされています。分子標的薬では、べバシズマブが保険適用となっています。最近話題となっている免疫チェックポイント阻害剤ですが、卵巣がんの保険適用はまだありませんが、今後期待できる薬剤だと考えます。

そのほかの治療

良性腫瘍である卵巣嚢腫や子宮筋腫などの多くは、腹腔鏡手術を取り入れるところが多くなりました。患者さんの希望に応じて、低侵襲に行う治療が可能になってきています。また、月経過多に対してお腹を切らない治療の「マイクロ波子宮内膜アブレーション」や、子宮の中にある筋腫(粘膜下筋腫)に対する子宮鏡下手術なども行われます。

ホルモン補充療法は、閉経後で更年期症状がひどい場合などに有効です。自覚症状だけでなく、高コレステロール血症や骨粗しょう症の予防などにも効果があります。特に、閉経前に卵巣腫瘍などで両側の卵巣を取った人には、ホルモン補充療法が考慮されます。子宮体がんはホルモンに依存しているので、ホルモン補充療法は基本的には行いませんが、ほかの薬剤などで改善せずに更年期症状が強い場合には使用されることもあります。卵巣がんや子宮頸がんの術後の更年期症状、前述の骨粗しょう症、高コレステロール血症などに対してホルモン補充療法を行うことは、がんの再発などに関して特に問題はありません。

クリニックと周産期母子医療センターの連携が重要

産科医不足や分娩を扱う病院の減少が報じられ、妊娠や出産に不安を募らせる女性も多いと思いますが、最近の統計では、広島県内の開業医クリニックでの出産が久しぶりに増加しました。これは、中規模の総合病院での出産数の減少もその一因と思われます。

県内には、合併症妊娠、胎児異常、異常分娩などのリスクの高い妊娠や出産に対応できる、母子・胎児集中治療室(MFICU)や新生児集中治療室(NICU)などを備えた2か所の総合周産期母子医療センター(広島市民病院、県立広島病院)と、これに準じた設備やマンパワーを持つ6か所の地域周産期母子医療センターがあります。そこでは、医師や看護師が母子管理や未熟児の治療に取り組んでいます。妊娠経過でハイリスクな問題を抱えている場合は、クリニックの指示により周産期母子医療センターへの紹介や母体搬送がされます。

ハイリスク妊娠とは、妊婦や胎児のいずれか、または双方に高いリスクが予想される妊娠のことです。何らかの疾患を合併している妊婦や、過去の不良な妊娠や分娩などが挙げられ、多数のリスク因子が存在します。具体的には、妊婦の高血圧、心疾患、糖尿病、、双胎妊娠、前置胎盤や赤ちゃんの発育が悪い場合、赤ちゃんの超音波に異常があるなどのケースがあります。

クリニックなどからの紹介で、周産期母子医療センターがある総合病院で詳しく診察してもらい、その後経過が良好なら、再びクリニックに戻る場合もあります。かかりつけ医・クリニックと総合病院が連携しながら、妊娠管理や出産に臨めれば、より安心です。