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変わりつつある皮膚科疾患の治療

広島大学病院 皮膚科 教授秀 道広

ひで・みちひろ。1984年広島大学医学部卒。米国国立衛生研究所研究員、英国ロンドン大学St Thomas's Hospital研究員、厚生連尾道総合病院皮膚科部長、広島大学医学部皮膚科助手、講師を経て、2001年同大教授。現在、同大医学部長。特にじんましん、アトピー性皮膚炎の診療に定評。日本皮膚科学会専門医。日本アレルギー学会専門医・指導医

皮膚科疾患の治療は、効果的な新薬が次々と登場したり、同じ薬でも以前と使い方が変わったりと、数年前とはずいぶん様変わりしています。
皮膚科疾患の中でも患者数が多く、治療が長引くことも多いのがアトピー性皮膚炎と慢性じんましんです。広島大学病院皮膚科の秀道広教授に、これらの疾患を中心に、最新の皮膚科治療の話とかかりつけ医との付き合い方などを聞きました。

生物学的製剤の進歩

関節リウマチやがんに対して使用されていた生物学的製剤(以下、生物製剤)は、ここ数年、皮膚科領域でも使用されるようになりました。生物製剤とは、これまでのような化学的に合成した医薬品ではなく、生物が合成するタンパク質から作られる医薬品です。高価で、重い感染症にかかっている人には投与できないなどの制約があり、全ての患者さんに使えるわけではありません。投与できるかどうかは、基本的には総合病院で血液検査や、胸部・関節などの画像検査の結果を踏まえて判断します。

乾癬、じんましんの最新治療

生物製剤によって大きく変わったのが乾癬とじんましんの治療です。乾癬は、30~50歳代で発症することが多く、いったん発症すると根治することはほとんどありません。直接命にかかわることはないのですが、関節症状を伴い、患者さんのQOL(生活の質)が大きく妨げられることが多い病気です。遺伝的背景、食生活、メタボリックシンドロームとの関係が深いといわれています。
現在、乾癬に対して多くの生物製剤がありますが、いずれも患者さんの費用負担が少なくありません。また、重篤な感染症や結核の人には使えないか、慎重に使います。さらに、開業医のもとで治療を続ける場合は認定施設との連携が必要です。
2017年には内服薬も登場しました。生物製剤より効果は弱いですが、副作用の危険が少なく、使用する施設の制限もないため、開業医の間でも使われ始めています。外用薬(付け薬)も変化しています。従来はステロイドとビタミンD剤が基本でしたが、その両方を合わせた、効果の高い薬が登場しています。ただし、結核や肝炎の人は使わない方がよく、また、感染症を起こすことがあるので継続的に経過観察をする必要があります。
じんましんの治療でも、2017年から新しく生物製剤の一種が保険適用になりました。明らかな原因がなく、毎日のように症状を繰り返す慢性じんましんの患者さんに高い効果が認められます。
高価な薬ですが、乾癬の生物製剤よりは安く、皮膚科専門医またはアレルギー専門医が勤務し、喘息やアナフィラキシーショックの症状に対応できる施設であれば使用できます。ただし、じんましんの中でも対象となる病型が限られているため、開業医の場合はそういうじんましんを適切に診断し、総合病院に紹介できる役割が求められます。

変わってきたアトピー性皮膚炎の治療法

生物製剤の使用は、アトピー性皮膚炎の治療に広がりつつありますが、最近、既存の外用薬を用いたプロアクティブ療法という方法が注目されています。
従来は、症状が治まったら次第に弱いランクの薬に下げていきましたが、プロアクティブ療法では、アトピー性皮膚炎が軽快した後もしばらく同じステロイド外用薬の使用を続け、十分に炎症が治まってから徐々に薬を塗る回数を減らします。最終的には、保湿剤のみ、または症状が現れたときのみ外用することで、再発や再燃(ぶり返し)の頻度や重症化が減ることが期待されます。
ステロイドは、炎症を取るためには非常に強力な手段ですが、いきなりやめると激しくぶり返すなど、正しい使い方をしないと危険です。アトピー性皮膚炎では、一見治ったように見えても目に見えない軽い炎症が持続していて、何かの刺激で再び悪化するという研究データもあります。皮膚炎が良くなって正常(に見える)皮膚にステロイドを塗り続けることに不安や抵抗感を抱く人が多いのですが、多くの患者さんがこのやり方で良くなっています。医師には薬の使う量、塗り方、使う期間を患者さんごとに対応していくことが求められます。
ステロイドの副作用には、皮膚が薄くなったり、毛細血管が拡張して赤く見えるなどあり、年齢の高い人に現れやすい傾向があります。なお、皮膚が茶色に変色するのは、強い炎症が治った際に現れる色素沈着で、薬の副作用ではありません。
アトピー性皮膚炎の炎症を抑える外用薬には、ステロイドのほかにタクロリムス(プロトピック®)軟膏があります。ステロイドほど効果は高くありませんが、やめてもすぐにぶり返すことはありません。ただし、紫外線に当たり過ぎない、使い始めに刺激感を感じるなどの注意点があります。また、この薬は免疫力を下げるため「がんになるのでは」と心配する人がいますが、適切な使い方をすれば問題ありません。
現在、新しい種類の外用薬の臨床治験が進行中で、承認されるとステロイド、タクロリムスに続く、アトピー性皮膚炎に対する第3の外用治療薬となることが期待されます。

皮膚がん、尖圭コンジローマの治療

皮膚がんに対しては、現在も切除が基本ですが、一部の皮膚がんについては塗り薬も現れています。また、がんが免疫力を弱めるしくみを抑えることにより、生体本来の免疫力を強化する抗体医薬も出てきました。そのほか、頭にできやすい血管のがんでは、抗がん剤と放射線治療の成績が良くなり、あまり手術は行われなくなりました。さらに、ほかのがんも含めて分子標的治療(内服薬)も使えるようになり、皮膚がんの治療は大きく進歩しています。がんが心配なときは、早めに近くの皮膚科医を受診し、必要に応じて適切な専門病院を紹介してもらうのがベストです。
尖圭コンジローマはイボの一種で、赤ちゃんにできることもありますが、ほとんどが性感染症です。従来は細胞を凍結・破壊する治療や電気メスで焼き切る治療を行っていましたが、現在は自宅で一定時間塗布した後、洗い流す外用薬による治療が主流となりました。

信頼できるかかりつけ医とは

良いかかりつけ医としては、単に薬を処方して終わりではなく、病気の説明や薬の使い方、生活の指導もしてくれる先生。また、各地で開かれている皮膚科医の勉強会に積極的に参加して情報交換し、絶え間なく新しい知識を取り入れている先生。より専門的な治療が必要と判断したときは、迷わず総合病院に紹介する先生。最後に、標準的な治療を踏まえて各々の患者さんに合った治療をする先生がお勧めです。以上の視点で、ご自分に合ったかかりつけ医を選んでください。