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泌尿器疾患の治療とかかりつけ医の役割

広島大学大学院 医歯薬保健学研究科 教授  広島大学病院 泌尿器科 診療科長、教授松原 昭郎

まつばら・あきお。1985年広島大学医学部卒。1996 Center for Cancer Biology and Nutrition,Institute of Biosciences and Technology, Texas A&M University System Health Science Center Houston, TX, U.S.A. 2002年広島大学大学院医歯薬学総合研究科准教授。2008年同教授。2012年同大学院医歯薬保健学研究院教授。日本泌尿器科学会(理事、代議員)。日本泌尿器内視鏡学会(評議員)など

泌尿器科は、泌尿器全般(尿を作り、運び、溜め、排出する)と生殖器を含む、非常に広範囲な領域を診療します。しかし、他人に話しづらい部位のため、1人で悩んでいる人も多いのが実情。そこで、広島大学病院泌尿器科診療科長・教授である松原昭郎先生に、泌尿器官とその疾患や治療について話を聞きました。

泌尿器とは

泌尿器とは、読んで字のごとく尿を分泌する器官を指し、腎臓(血液をろ過して尿を作り出す)・尿管(尿を膀胱に送る)・膀胱(尿を溜めて出す)・尿道(尿を出す通路)などに分けられます。また、これらの器官をまとめて尿路と呼びます。泌尿器科は、それら泌尿器と男性生殖器(陰茎、前立腺、精巣)の疾患を主に扱う診療科です。

男女では尿排出のしくみが違う

男女とも、尿を溜めて排出する機能はほぼ同じです。違いとしては、尿道の長さ・位置と、骨盤底のしくみにあります。
男性の尿道は、長さが20㎝ほどあってS字に折れ曲がり、さらに前立腺に囲まれているため、もともと尿が出にくい構造です。尿道を閉める骨盤底筋群は、女性に比べて頑丈です。一方で、女性の尿道はわずか3~4㎝で、前立腺もなく、尿道は出口までまっすぐ下りています。また、出産のため骨盤底筋群は柔軟になっています(下図)。
このため、男性の場合は長い尿道の一部が詰まりやすく、尿が出にくい傾向にあり、対して女性の場合は、出産などで骨盤底筋群が緩みやすいため、尿道を閉じて尿を溜める機能が低下して、尿が漏れやすい傾向があります。

男性特有の疾患とは

男性特有の疾患としては、前立腺肥大症や前立腺がんなどがあります。
前立線肥大症は、文字通り前立腺が肥大して、頻尿・排尿困難・残尿感などのさまざまな排尿障害を引き起こす疾患です。単に前立腺が大きくなっているだけでなく、症状が出た場合に初めて前立腺肥大症と診断されます。50歳以上の男性の20%が前立腺肥大症であると推定されています。原因ははっきり特定されていませんが、最も大きな原因として「男性ホルモンの関与」が示されています。治療法は、大別すると薬物療法・手術療法の2つがあり、手術方法は内視鏡やレーザー技術の向上により進歩しています。
前立腺がんは、前立腺の細胞が何らかの原因で増殖を繰り返す疾患です。早期の前立腺がんは、多くの場合で自覚症状がありませんが、がんが前立腺内で大きくなったり、近くの組織に広がると、前立腺肥大症と同じような症状が現れます。さらに、進行して骨に転移すると、疼痛や歩行困難などをきたします。
80歳以上では、20%前後の人に前立腺がんが認められるともいわれ、高齢者に多い疾患の一つです。国内では近年、特に増加傾向にあり、厚生労働省のがん罹患率の短期予測(2017年)では、男性では3位となっています。米国では、30年前から男性の部位別がん罹患数で最も多く、あるデータでは、2020年には国内男性のがん罹患数で1位になるのではと危惧されています(P422、下表)。

PSAテストで前立腺がんの予防を

前立腺がんのメカニズムは解明されていませんが、「加齢」「人種(黒人・白人・黄色人種の順で多い)」「生活習慣」「遺伝(近親者に1人いた場合、2倍かかりやすい)」などの危険因子が分かっています。
治療法は、疾患の進行度などによって変わりますが、無治療経過観察・放射線療法・ホルモン療法・手術などの選択肢があります(下表)。がんの進行は比較的緩やかなため、早期に発見すれば治癒することも可能です。近年、PSAという腫瘍マーカー(判断の目安)を用いた検査・検診で発見される機会が増えています。
PSAとは前立腺特異抗原の略で、前立腺から精液中に分泌されるタンパク質の一種です。前立腺に異常があると、血液中にPSAが大量に放出されて濃度が高くなるため、前立腺がんのマーカーとして使われています。
米国では、90年代からPSA検査が普及し、現在では50歳以上の男性の60~80%が、PSA検査を受けているといわれています。国内では、10数%の受診率でまだ認知度が低いですが、83%の市町村が住民検診でPSAテストを行っています(2015年)ので、お住まいの自治体にお問い合わせください。

女性特有の疾患とその治療法

女性特有の疾患は、急性膀胱炎・腹圧性尿失禁・骨盤臓器脱などがあります。
女性は、尿道が男性より短く、尿道の位置が肛門の近くにあるため、男性に比べて膀胱に細菌が入りやすく、急性膀胱炎などの炎症を起こしやすいといえます。20~30歳代に多く、単純な感染であれば抗生物質ですぐ治りますが、繰り返す膀胱炎は他の疾患の可能性があります。
長引く膀胱炎で「頻尿の程度がひどい」「尿が溜まるにつれて痛み、排尿後は楽になる」などの特徴があれば、間質性膀胱炎の疑いがあります。はっきりした原因は不明で、膀胱粘膜の障害・免疫異常・尿中の物質による刺激などが影響しているのではといわれています。細菌が原因ではないため抗生物質は効かず、対症療法としては食事指導や薬物療法があります。
また、くしゃみなどでお腹に力が入ったときに思わず漏れてしまう腹圧性尿失禁も、悩まれている方が多い疾患です。出産や加齢などによる骨盤底筋の緩みが起因しています。対処としては、緩くなった骨盤底筋を強くする必要があります。主な治療法は、骨盤底筋体操か手術になります。
骨盤臓器脱は、骨盤内にある臓器(子宮・膀胱・直腸など)が次第に下がってくる疾患で、出産や老化などで、それらを支える骨盤底筋が弱くなることが原因です。軽度の場合、生活改善・骨盤底筋体操・装具療法などが有効です。

過活動膀胱(OAB)が増加

現在、国内では高齢社会になり、排尿障害で悩んでいる人が増えています。その中の1つの過活動膀胱(以下、OAB)は、膀胱が過敏になり、自分の意に反して収縮してしまう疾患です。主な症状は「尿意切迫感」「頻尿」「切迫性尿失禁」で(下イラスト)、40歳以上の10数%(810万人)が該当するといわれています(P426下表)。
原因は、神経性のものとそれ以外に大別されます。神経因性は脳卒中やパーキンソン病などの神経障害があるとき、非神経因性は前立腺肥大や骨盤底筋のトラブルなどがあげられますが、ストレスなど特定できない場合もあります。
OABの疑いがある場合は、まずは泌尿器科で受診することをお勧めします。簡単な問診と尿検査などで診断がつきます。OABの治療は、投薬・電気刺激・行動療法がありますが、特に生活指導や膀胱訓練といった行動療法が有効です。
ご自身がOABかどうかについて、P427の過活動膀胱症状質問票(OABSS)を参考にしてみてください。

専門医・かかりつけ医・患者の連携が大切

泌尿器科は外科系の診療科のため、小規模な医療施設でも、一定の手術を行う技術と設備が備わっている場合が多いかと思います。また、泌尿器科の疾患は、神経や脳の疾患や糖尿病など他の内科疾患に関わることもあり、そうした知識と紹介のネットワークを持っています。
中規模以上の病院では、一般的な疾患に加え、がんや難治性の疾患などに対してより高度で専門的な検査・治療を行っています。また広島県では、5大がんに加えて前立腺がんについても地域連携パスの整備を進めており、「急性期の治療を行う病院」「回復期を担う地域のかかりつけ医」「患者さん」での、スムーズな情報共有を図っています。
ちなみに広島大学病院では、泌尿器がんの治療や、排尿障害の高度な機能的診断・最先端治療を行っています。痛みや出血が少ない方法(低侵襲治療)をめざしており、その一つとしてロボット支援手術を積極的に活用しており、前立腺・腎細胞・膀胱がん合わせて559人の実績があります(2017年12月までの累計)。
ロボット支援手術は有効な手術の一つですが、どの治療が最適かは症状・部位・年齢などにより異なります。がんに限らず、治療法に関しては術後の対応も重要ですので、かかりつけ医や専門医とよくご相談ください。

少しでも不安や悩みがあれば気軽に受診を

良いかかりつけ医とは「疾患や治療方法の説明を十分にしてくれる」「行動療法など専門的で根気のいる方法を教えてくれる」「専門的な治療が必要と判断したときに、すぐに他の医療機関を紹介してくれる」先生だと思います。
現在は、医薬の進歩で排尿の問題は良くなることが多くなっています。歳のせいとあきらめずに、少しでも不安や悩みがあれば気軽に受診してみてください。