Return to top

整形外科の治療と最新の動向

広島大学病院 整形外科教授安達 伸生

あだち・のぶお。1962年生まれ。1988年広島大学医学部卒。JA広島総合病院、松山日赤病院等を経て、島根医科大学病院助手時代にピッツバーグ大学(アメリカ)留学。2016年から広島大学大学院医歯薬保健学研究科教授、広島大学病院スポーツ医科学センター長。日本整形学会専門医。日本整形外科学会認定スポーツ医。日本関節鏡・膝・スポーツ整形外科学会(JOSKAS)関節鏡技術認定医(膝)。サンフレッチェ広島チームドクター。広島東洋カープチームドクター。

近年日本においては、他の先進国と比較しても非常に早いスピードで高齢化が進んでおり、整形外科診療のニーズが益々高まっています。
整形外科の各部位の疾患に関して、その治療方法と最新の動向のほか、「かかりつけ医」の役割について、広島大学病院整形外科の安達伸生教授に聞きました。

高齢者を主に、患者の利益につながる診療方法が進歩

広島県内の整形外科診療は開業医、地域の基幹病院、公的病院など、全国的にもトップレベルにあります。広島大学は県内唯一の医学部を有し、多くの基幹病院に人材を派遣しています。大学病院整形外科には8つの診療科グループがあり、それぞれ専門性の高い医療を提供しています。
現在、高齢患者は整形外科分野でも確実に増えており、それに伴って高齢患者の手術件数も増加傾向にあります。年齢や痛みの程度にもよりますが、広島大学整形外科では自分の関節を可能な限り温存する治療を目指しています。高度の変形性関節症では人工関節置換術が適応となりますが、人工関節手術の成績も向上しています。
次に、各部位ごとの診療と治療の最新動向について説明します。

●膝関節
高齢化に伴って、変形性膝関節症などの膝の症状を有する患者は増加しています。治療では、年齢や関節の状態によりリハビリ、投薬注射、装具療法などの保存的治療や、関節鏡視下手術、骨切り術、人工関節置換術などの手術的治療が選択されます。2013年から、部分的な軟骨欠損に対しては再生医療が保険適用になり、良好な成績を上げて注目されています。
広島大学整形外科では、サンフレッチェ広島や広島東洋カープなど、プロスポーツ選手やトップアスリートの治療も行っています。スポーツ選手に対する高いレベルの治療成果は、一般の患者さんの治癒率アップにつながっています。

●股関節
股関節の手術も、可能な限り患者さん自身の股関節を温存することを目指しています。とりわけ、若年者の変形性股関節症患者に対しては、寛骨臼回転骨 切り術や大腿骨骨切り術を行っています。これまで治療の難しかった関節唇損傷に関しても、最近は股関節鏡視下術が可能になりました。股関節の周囲に小さい穴を数か所作って内視鏡を入れ、損傷部位を切除、あるいは縫合する手術です。
最近のトピックスとしては、「FAI(股関節インピンジメント)」があります。大腿臼蓋インピンジメントとも呼ばれていますが、インピンジメントとは「衝突」や「挟み込む」という意味です。
股関節の受け皿となる骨盤の臼蓋や大腿骨の骨形態異常があると、股関節を大きく動かす際にこれらが衝突し、挟み込まれる股関節唇が損傷するということが分かってきました。これまで原因のはっきりしなかった股関節痛の内、ある程度の割合でFAIがあるとみられています。これも内視鏡下による手術の適応となります。

●手の外科
手や指の様々なけがや病気に対して、深い知識と経験を備えた手外科専門医が治療を行っています。最近では、手の骨折や拘縮(関節が硬くなり動かない状態)に対して関節鏡視下手術を行い、良好な成績をあげています。また、これまで手術療法が行われてきたデュプイトラン拘縮(手のひらから指にかけてしこりができ、病気の進行に伴って皮膚がひきつれて、徐々に指が伸ばしにくくなる)は、注射で治療することが可能となっています。
一方、小さな血管や神経を縫合する技術(マイクロサージャリー)を駆使して、切断した指、麻痺手、外傷により生じた大きな組織欠損、腫瘍切除後、などに対しての再建を数多く行っています。また、母指多指症などの小児先天性疾患に対しても、適切な手術を行っています。

●脊椎・脊髄
脊椎・脊髄手術では、顕微鏡下による低侵襲(患者に負担の少ない)手術が主流です。症例によっては、さらに負担の少ない内視鏡による除圧手術も行なっています。神経を傷つけることなく、安全性を高く行い、切除は最小限にとどめることができます。
腰椎変性すべり症・分離症・変性側弯症・後弯症等に対する手術であるPLIF(腰椎椎体間固定術)は、腰部脊柱管狭窄症などによって圧迫された、脊髄の除圧や腰椎変性すべり症などによる、不安定腰椎に対する固定などを目的とした手術です。脊髄の圧迫が取り除かれ、脊椎の安定性が図られます。

●側彎
背骨が捻じれて曲がる脊柱側彎症は、痛みなどの具体的な症状がないため、見過ごされやすい疾患です。高度な側彎症は手術を行うこともありますが、矯正装具による治療が中心になります。広島県内では、側彎症の検診が他県に比べて進んでいます。比較的変形の少ない患者さんでは、装具治療が行われますが、進行例に対しては矯正手術が行われることもあります。

●肩関節
肩関節疾患においても、低侵襲である関節鏡視下手術が主流です。肩腱板断裂、反復性脱臼に対する関節鏡視下手術も、高い成功率を収めています。
保険適用になったリバース型人工肩関節置換術の場合、通常の肩関節の頭と受け皿の構造が真逆の形態になっています。リバース型人工肩関節では、腱板の力がなくても三角筋の力で挙上(持ち上げる)が可能となり、関節の安定化と挙上動作の改善が期待できます。

●足関節
足関節外来では、内反足や外足踵足などの小児先天性疾患、外反母趾・変形性足関節症などの成人の足部変形、足関節外側靭帯損傷や距骨離断性骨軟骨炎などに対し、保存的治療(投薬やリハビリ等の手術以外の治療)から手術治療まで幅広く診療しています。
内反足の治療では、矯正ギブスや装具療法などの保存的治療で優れた成績をあげています。また、靭帯損傷の場合は自身の靭帯を縫い込む再建術が主流で、自分の靭帯が使えない場合には腱移植による再建術を行います。

●腫瘍外科
整形外科で扱う腫瘍は、四肢(上肢、下肢)や脊椎にできる腫瘍で、良性腫瘍と悪性腫瘍に分類されます。悪性腫瘍は、他の臓器に(特に肺に多い)転移することがある致命的な病気です。したがって、診断をできるだけ早期に正確につけ、適切な治療を行うことが重要です。
最近では、MRI(核磁気共鳴画像法)やPET(陽電子放射断層撮影)などで、病態や病期の正確な診断が可能です。治療法も進歩しており、患者さんの四肢機能をできるだけ温存し、腫瘍が根治されるよう、化学療法や放射線治療を組み合わせた集学的な治療が可能となっています。

「かかりつけ医」の役割と広島県下の現状について

これら整形外科疾患の予防法としては、筋肉トレーニングやストレッチが重要です。また、早期診断や早期治療が何より大切ですので、まずは「かかりつけ医」でしっかりと診断してもらうことが重要になります。整形外科クリニックで行う保存的治療の重要度が増しており、その水準も非常に高くなっています。
整形外科のかかりつけ医として必要なことは、「気軽に受診できること」です。
開業医は幅広い知識が求められます。手術適応が必要かどうかの判断がより大切で、総合病院に適切なタイミングで紹介することが重要になります。
総合病院での手術が終わると、リハビリのためにかかりつけ医で引き続き加療するケースも多くなります。広島県内では、地域でのネットワークが広がっており、総合病院とかかりつけ医の連携をさらに深めています。