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消化器内視鏡の診断・治療の最前線

広島大学病院 内視鏡診療科 教授田中 信治

たなか・しんじ。1984年広島大学医学部卒業。1986年北九州総合病院内科。1989年広島大学第一内科・医員。1991年国立がんセンター病院(現中央病院)内視鏡部。1992年広島大学第一内科・医員、1993年同助手。1998年広島大学病院光学医療診療部・助教授(副部長)。2003年同部長。2007年同内視鏡診療科教授。2011年広島大学病院病院長補佐。2015年同IBDセンター長。

現在大腸がんが急増しており、がん罹患率の第1位となっています。また食道がんも増えてきて、胃がんに関してもまだ数の多い病気です。早期の食道咽頭がん、胃がん、小腸・大腸がんに対しては内視鏡治療が可能で、大きな病変でも適応のあるものは、外科手術ではなく内視鏡的切除によって根治的治療が行えます。最先端の消化器内視鏡診断と治療、かかりつけ医の役割について、広島大学病院内視鏡診療科の田中信治教授に話を伺いました。

世界の最先端をいく消化器内視鏡診断と治療

広島大学病院内視鏡診療科では、世界の最先端をいく消化器内視鏡診断と治療を行っており、食道がん、胃がん、小腸・大腸がんに対する診断と内視鏡治療の実績は、国際的にも高く評価されています。カプセル内視鏡やダブルバルーン内視鏡による全小腸の診断や治療も積極的に行っており、全ての消化管疾患領域で最先端の内視鏡診療を苦痛なく受けることができます。

近年の消化器領域の診断や治療におけるトピックスの一つとしては、2012年に早期悪性大腸腫瘍に対する粘膜下層剥離術(以下、ESD)として、食道・胃ESDに続き、大腸ESDも保険適用になりました。大腸ESDの適応基準は、「一括切除が必要であるが、スネア(ループ状の針金)による一括切除が困難な悪性腫瘍性病変」です。

現在、食道と胃に関してはESDがほとんど主流になっていますが、大腸ではEMR(内視鏡的粘膜切除術)も行っています。大腸ESDの適応は悪性腫瘍に限られます。大腸ではがんだけでなく、がんではない良性腫瘍も治療しており、EMRを選択するのは前がん病変である腺腫や鋸歯状病変などの比較的小さい病変です。また、良性なら分割して摘除することも容認されており可能なため、短時間・容易・経済的なEMRが選択されます。

今や胃のESDは一般化していますが、食道のESDはハイボリュームセンター(手術症例数の多い施設)で行われることが多く、最も難しい大腸ESDもこれまではそうでした。しかし、保険適用になり、機器の開発・改良や、手技の工夫により技術的なハードルも徐々に下がってきて、難易度の高い病変を除いて大腸ESDも徐々に一般化しつつあります。

大腸カプセル内視鏡が保険適用

2014年からは、新たな大腸疾患の検査・診断機器として、大腸カプセル内視鏡が保険適用になりました。幅11㎜、長さ26㎜の一般的な薬のカプセルの形状をしたカプセル内視鏡は、水と一緒に飲み込み、腸管内部を進みながら内蔵の小型カメラで写真を撮影していきます。カプセルの通過による不快感はないため、日常生活を送りながら検査が可能です。ポリープの有無などの大腸疾患の診断に使われ、麻酔も必要なく、放射線被曝の心配もありません。

当科では、カプセル内視鏡により小腸の検査を行ってきましたが、大腸カプセル内視鏡検査も実施が可能です。ただし保険適用は、大腸内視鏡検査による深部挿入が困難で、過去に全大腸の検査が受けられなかった人などに限られています。大腸内で撮影した画像は、患者の体に貼り付けたセンサーを経由して記録装置に転送され、検査後、専門医が専用コンピューターで解析します。

このほか、年々患者数が増加している病気に、炎症性腸疾患(クローン病、潰瘍性大腸炎)があります。この病気は、免疫の異常反応により腸管粘膜に炎症や潰瘍が生じる慢性疾患で、原因はまだはっきりしていません。これまで、炎症性腸疾患には2つの生物学的製剤が承認されていましたが、最近さらに新しい生物学的製剤も複数登場し、使用可能になっています。あらゆる年代に分布し、若年層での発症も多い病気だけに、患者さんにとっては朗報です。

胃がんの内視鏡検診が開始

私が医者になったころは、食道がんの8〜9割は進行がんでしたが、内視鏡機器や技術が進歩して、画像強調観察という食道がんを早期に発見する診断法なども現れ、現在ではすでに食道がんの多くは、表在がんという早期で内視鏡で摘除できるがんになっています。

胃がんに関してもピロリ菌が原因だということが解明され、また、飲み水などの衛生環境も良くなり、若い人ほどピロリ菌の感染率は低くなってきて、ピロリ菌感染者は急激に減少しています。中高年でピロリ菌陽性の人も除菌が保険適用になり、高齢社会の中で増加傾向にある胃がんも、10年、20年後には減っていくと考えます。胃がんの診断についてもめざましく進歩してきており、これまでバリウム検査だけだった胃がん検診に、2016年から内視鏡検査(胃カメラ)が加わり、高画質の内視鏡画像で早期に診断できるようになりました。

大腸がんに有効な便潜血検査

一方、大腸がんは急激に増えていて、現在ではがん罹患率第1位です。原因の主因は、食生活の欧米化と国内の高齢社会と考えられていますが、国内の大腸がん検診の受診率が3割以下という低さも問題です。日本の3倍の人口の米国よりも、大腸がんで亡くなる人は日本の方が多いのです。米国の検診受診率は約7割です。がんは、やはり早期発見・早期治療に尽きるのです。

大腸がん検診で推奨しているのは便潜血検査です。1000人が便潜血検査を受ければ、約100人が陽性になります。その100人に内視鏡検査を行えば、3〜4人に大腸がんが見つかります。便潜血検査は費用が安く、簡易に実施が可能、しかも、精密検査をする人を10分の1に絞り込める重要な検査です。

信頼できるクリニックを選んでいただきたい

がん検診の目的は、がんで亡くなる人を減らすことです。がんは症状が出た時には手遅れの状態が多く、症状がないうちに検診を受けて早期に見つけることが重要です。がん治療の基本は完全摘除です。食道・胃・大腸であれば手術しなくても内視鏡で摘除できることが多く、検査による痛みも鎮静剤の効果があり、安心して受けられます。多少進行していても手術で完治できる可能性も高く、また抗がん剤や分子標的薬などの薬も飛躍的に進歩してきています。手術に化学療法を加えることで良い予後を得ることもできます。

大学病院などの大きな病院は、専門的な知識や技術を必要とする病気に対処するための高度医療を提供する施設であり、一般検査や普通の病気は開業医やクリニックで十分対応できます。ただし、大腸内視鏡検査は術者の技術レベルに比較的差があり、施行医によって時間や患者さんの苦痛の程度も違うことがあります。広島地域では、広島大学を中心に定期的に症例検討会や勉強会、研究会が開催され、熱心に参加される開業医の先生もたくさんおられます。ホームページ・診療実績・検査の件数・先生の経歴などを参考に、信頼できるクリニックを選んで受診するとよいでしょう。検査をどのくらいの頻度で受ければよいかは、その人の生活習慣・家族歴・病歴などによって一人ひとり異なります。40~50歳くらいになったら、まず一度は内視鏡検査を受けることをお勧めします。