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呼吸器の病気と上手に付き合うために

広島大学病院 呼吸器内科 教授服部 登

はっとり・のぼる。1987年京都大学医学部卒。1996年福井医科大学(現福井大学医学部)第二病理学教室助手。1997年京都大学博士号(医学)。米国University of Michigan研究員。1999年同上級研究員。2001年財団法人田附興風会北野病院内科副部長。2007年広島大学大学院分子内科准教授。2017年同教授。平成26年度日本呼吸器学会・熊谷賞受賞。日本内科学会総合内科専門医。日本呼吸器学会専門医。がん治療認定機構暫定教育医。

近年では高齢社会が進む中、肺炎による死亡率が国内で第3位となるなど、内科の中でも呼吸器内科の重要性は高まりつつあります。広島県は、伝統的に呼吸器内科の専門医を数多く輩出しており、治療に関しても国内でトップレベルにあります。
ここでは、呼吸器疾患の治療法と最新の動向および、かかりつけ医の役割について、広島大学病院呼吸器内科の服部登教授に話を聞きました。

充実した広島県の呼吸器疾患医療体制

広島県は全国的に見ても呼吸器内科の医療機関が充実しており、そのため広島県民は肺がんをはじめとする呼吸器疾患に関して、安心して受診可能な環境にあるといえます。広島大学には、戦後直後から呼吸器内科の教室があって約70年の歴史があり、優秀な人材を多数輩出しています。このため、広島県下には呼吸器疾患を専門的に診ることができる病院が多くあり、広島市内だけを見ても広島大学病院をはじめ県立広島病院、広島赤十字・原爆病院、広島市民病院、安佐市民病院、吉島病院など、それぞれの基幹病院が中心になって、全国的にも高度な診療を展開しています。また、開業医の先生方も、気管支喘息や睡眠時無呼吸症候群などの分野で専門性の高い治療を提供しています。

次に、主な呼吸器疾患の特徴と治療法について紹介します。

●肺炎

現在、国内で第1位の死亡原因は悪性腫瘍(がん)ですが、第2位の心疾患に続いて第3位に肺炎が入るほど、患者数・死亡者数が増加しています。肺炎で亡くなる方の多くは高齢者で、そのほとんどが誤嚥性肺炎です。嚥下(飲み込む)時に誤って気管にものが入ってしまうだけではなく、口の中の食べ物、唾液、細菌などが気が付かないうちに自然と気管に入ることが原因となって発症する疾患です。健康な人なら咳などで吐き出すことができますが、加齢によって気道粘膜の繊毛運動(気管内の排出運動)や咳反射が弱くなると、吐き出すことができなくなります。しかも、歯槽膿漏や喫煙などで口の中が汚れていると、肺炎の原因となる細菌が増殖してしまいます。一番の予防法は口腔ケアで、誤嚥を防げなくても、吸引してしまう細菌が少なくなれば肺炎を防ぐことができます。肺炎球菌ワクチンとインフルエンザワクチンの接種によって発生率を減少させる効果があることも分かっています。

●睡眠時無呼吸症候群

ドライバーの居眠り運転の一番の原因ともいわれているのが、睡眠時無呼吸症候群です。重症者では、ひと晩に何百回も呼吸が停止するほどの深刻な疾患です。

良い眠りとは「副交感神経優位(リラックス状態)となり、安らいでいて、血圧が下がっている状態が続くこと」ですが、この疾患は、交感神経優位(緊張状態)の時間が長く、心拍数が上がっている状態がひと晩中続きます。すると、狭心症・心筋梗塞・脳梗塞などのさまざまな病気を引き起こす原因になります。これらの病気に罹患したあとに、睡眠時無呼吸症候群が隠れていたと分かるケースもあります。

原因として、まずは「喉が狭い」ことが挙げられます。喉が狭くなる一番の原因が、肥満によるものです。しかし、日本人は肥満が原因ではない場合も多く、「下顎が小さく、後退している人」も注意が必要です。また、頻繁にいびきをかく人もその兆候があります。最近では、若い女性の患者さんも増えています。

治療法は、鼻に装着したマスクから気道へ空気を送り込むCPAP療法が最も有効ですが、顎が落ち込むために無呼吸になっている人や、無呼吸の頻度があまりひどくない人についてはマウスピースを使用する場合もあります。

●喘息

気管支に炎症を起こす疾患で、原因は主にアレルギーです。ほこり・花粉・たばこの煙などが原因としてありますが、人によっては温度の変化に反応する場合もあります。気管支の周辺には平滑筋というものがありますが、それがキュッと縮まるのが喘息発作です。高齢の患者さんも増えており、気付かないうちに発症しているケースが大半です。

治療法は、平滑筋を緩める気管支拡張剤の服用がありますが、これは一時的に症状が良くなるだけで、炎症自体の治療はできません。現在では、気管支の炎症を抑える薬(吸引ステロイド薬)が出てきたため、亡くなる方は大幅に減少しました。患者さんの中には「発作が治まればそれでいい」と言われる人もいるのですが、喘息は完治する病気ではありませんので、きちんと薬の服用を続けていくことが大切です。

●COPD(慢性閉塞性肺疾患)

肺気腫や慢性気管支炎など、慢性的な閉塞性換気障害を指す疾患を総称して、COPD(慢性閉塞性肺疾患)といいます。患者さんのほとんどは喫煙が原因ですが、最近ではPM2・5(微小粒子状物質)などの有害物質も含まれます。

近年では喫煙率は下がっていますが、肺がんや肺気腫の患者数は増加傾向にあります。これは、これらの疾患が発症するまでに、約20〜30年のタイムラグがあるからです。国内の喫煙者数のピークは、おおむね1980〜1990年代のバブル期の頃で、当時の喫煙者たちが現在にいたって発症しつつあります。

COPDは、肺胞が炎症を起こして風船のように大きくなる肺気腫と、気管支が狭くなる気道狭窄が併存するため、息を吐き出しにくくなります。労作時に、健康な人は、大きく息を吸ってもきちんと大きく吐き出すことができますが、COPD患者さんは、息を吐き切る前に吸ってしまうため、肺の中にどんどん空気が溜まっていって肺が過膨張になり、息切れを起こします。

症状を悪化させないためには、禁煙しかありません。気管支を広げるための有用な吸入薬もあり、完全には元の状態に戻りませんが、呼吸困難は軽減されます。

●間質性肺炎

肺炎は肺胞の中の感染症のことをいいますが、間質性肺炎は肺胞同士の間に炎症が起こる疾患で、原因不明の特発性間質性肺炎は国の難病に指定されています。間質性肺炎にはさまざまな原因があり、粉塵(ほこり)・カビ・鳥の羽や糞の吸引、薬剤や放射線によるもののほか、膠原病から併発する恐れもあります。この原因を究明して治療するのが、私たち広島大学分子内科学教室が一番得意としている分野です。先代の教授である河野修興先生が開発した、世界初の間質性肺炎の血清バイオマーカー「KL-6」の測定も行い、診療の一助にしています。

治療法は病態によって変わります。基本的に、間質の炎症が強い場合は副腎皮質ステロイド剤や免疫抑制剤を使用するのが主流で、難病中の難病といわれる肺線維症には線維化を抑制する抗線維化薬を使用します。

●結核

結核は、現在では患者数は減少傾向です。結核の原因となる結核菌は抗酸菌という特殊な菌で、人間の体内でしか増えることができません。しかし、人から人に移っていき、何千年にもわたって生き延びています。結核菌は薬で減らすことは可能ですが、完全に消滅させることはできません。

戦後国内では、発症していなくてもほぼ全員が結核にかかっていたと考えられています。そういう人たちが年齢を重ねて抵抗力が弱くなってくると、結核菌が再活性する可能性があります。現在、国内で増えている結核はこのようなタイプです。また、症状がなくても人に移してしまう可能性があります。予防法としては抵抗力を付けることがあげられ、健康な体づくりが基本となります。

●肺がん

最近は、非喫煙者の女性の肺腺がんが増えています。生活環境の変遷や受動喫煙など、原因はさまざま指摘されていますが、完全には解明されていません。

治療は、外科的手術が難しい場合は、がん細胞の遺伝子の異常を調べて、それぞれの遺伝子の異常に合った薬を処方します。分子標的治療薬や免疫チェックポイント阻害薬を用いた治療も積極的に行っていますが、使用時期によりその効果の度合いが異なるため、最善の使用時期を総合的に判断しています。これらの治療により、肺がん患者さんに明らかな延命効果を出すことができております。

かかりつけ医として重要なこと

「かかりつけ医」の役割として大事なのは、「患者さんの話をよく聞いてあげて、そこから一生懸命、病気を特定するヒントを探すこと」「患者さんのちょっとした変化や訴えなどに注意を払うこと」だと考えます。例えば、整形外科分野の症状から呼吸器の病気が見つかる場合もあります。また、もし問題がなければ「……という理由で心配いらないですよ」と、きちんと患者さんに説明ができるような知識や経験値が必要です。患者さん自身も、説明してもらうと安心感が生まれると思います。

病状の評価を試みることなく「この患者を診るのは私には難しい」と、最初から診療を諦める医師もいます。その気持ちは分かりますが、かかりつけ医に求められているのは病状の正確な評価です。患者さんの初期のさまざまな病状を管理して、専門的治療が必要と判断した際は、適切な専門医に紹介することが大切です。