医者選び広島 クリニックサーチ

あなたのお腹とおしりは大丈夫?
~痔にならないために知っておきたいこと~

医療法人社団俊幸会
中川外科胃腸科 肛門科
院長
中川 健二(なかがわ・けんじ)

[プロフィール]

1949年広島市出身
広島大学附属高等学校卒業
1977年日本大学医学部卒業、広島大学第二外科教室入局
国立病院医療センター(現国立国際医療研究センター病院)外科勤務等を経て、
1984年中川外科胃腸科 肛門科開院

・日本大腸肛門病学会認定施設
・日本大腸肛門病学会認定 大腸肛門病専門医・指導医
・日本消化器外科学会認定医
・日本外科学会認定 外科専門医
・日本ヘリコバクター学会 ピロリ菌感染症認定医
・日本医師会認定産業医
・日本臨床肛門病学会認定 臨床肛門病技能指導医

TEL:082-262-2321

 

 痔疾患は、四つ足動物が二本足で立つようになった人間の宿命です。肛門が心臓よりも低いために、大人になったら2人に1人は痔主です。便秘の方、下痢の方、トイレで長く座っている方、中腰で重いものを持つ方は、肛門の圧が上がって痔主になる可能性があります。
 まず腹痛や便秘の原因、下痢の原因、治療から考えましょう。

 

●腹痛の原因

 腹痛には、「図」のように消化器疾患だけでなく、心・血管疾患、婦人科疾患、泌尿器疾患もあります。緊急治療を必要とするもの、良性疾患・悪性疾患、外傷既往・既往症を頭に入れて考えなければならないので、患者さん・ご家族は冷静に症状を伝えることが診断の近道になります。

●便秘について、知ろう

 排便回数減少(週に2~3回以下)で硬便となり、排便困難、残便感などの自覚症状を訴える状態を、便秘症といいます。
 まず大腸がんなどの器質的疾患(臓器そのものに、炎症やがんなどの異常がある疾患)の否定(これには大腸内視鏡検査や肛門鏡検査が必要です)、パーキンソン病など症候性便秘の場合は病歴、鎮痛剤・抗コリン剤・神経剤など内服薬による薬物性便秘かどうかの診断が必要です。
 便秘には、運動不足などの生活習慣の改善、規則正しい食習慣、食事は線維の多いものを取ること、適度な水分摂取が大切です。そして、排便の習慣を改善しましょう。さらに薬物療法で、腸管運動を改善していきます。
 薬物療法として、以下があります。

  • 塩類下剤
    腸内で水分を腸内容に吸収させ、軟化、蠕動運動を亢進させます。 酸化マグネシウムのMg(マグネシウム)は、腎障害患者さん・高齢者には高マグネシウム血症の危険があります。
  • 上皮機能変容薬
    腸管内への腸液の分泌を増加させ、柔軟化して、排便を亢進させます。
  • 胆汁酸トランスポーター阻害剤
    回腸での胆汁酸再吸収を阻害して、蠕動運動を亢進させます。
  • 経口腸管洗浄薬
    ポリエチレングリコール製剤で、大腸内視鏡検査前処置にも使用します。
  • 刺激性下剤
    腸を直接刺激して蠕動運動を亢進させます。頓服としての使用はよいですが、長期投与すると耐性が出たり、依存性があります。
  • 漢方薬
    麻子仁丸、潤腸湯、大建中湯、乙字湯、桃核承気湯、調胃承気湯、大黄甘草湯、通導散、大黄牡丹皮湯、三黄瀉心湯などがあります。

 以上の薬物を組み合わせて、以下のタイプの便秘症をコントロールします。

  • 通過遅延型
    大腸の運動低下によるもので、下剤に消化管運動改善剤を併用します。
  • 排便困難型
    便排出障害が、直腸収縮力低下や骨盤底筋協調運動障害によるものです。
  • 過敏性腸症候群便秘型
    大腸通過時間は正常ですが、腸の蠕動運動亢進で腹痛を伴い、水分が吸収され便秘となります。ストレスを改善させるような生活を心がけ、過敏性症候群の治療を行います。

 便秘でお悩みの方は、まず生活習慣、食事習慣、排便習慣を見直して、ぜひご相談ください。

●下痢について、知ろう

 下痢にもいろいろあります。大きく分けると、急性下痢症と慢性下痢症があり、急性下痢症の原因には、感染性と非感染性があります。まず便培養を行い、感染性腸炎の鑑別が必要です。

◇急性下痢症
[感染性下痢症]

  • カンピロバクター菌
    鶏肉から感染したり、ペットが保菌していることもあります(潜伏期間2~5日)。 右結腸に小潰瘍をつくることもあります。重症の場合、粘血便になります。 感染後にギランバレー症候群、過敏性症候群を発症することもあります。
  • 病原性大腸菌
    180種類以上あり、牛肉・汚染食品から、小腸・大腸に感染(潜伏期10時間~8日)します。 ベロ毒素を持った腸管出血性大腸菌(腸管病原菌O157など)は、血液を破壊して溶結性尿毒症候群を呈し、重症化する場合もあります。致死率は1~5%です。  ・サルモネラ菌 鶏・豚・牛の腸管や下水道の自然界に生息しています。 潜伏期間は12~72時間で、下痢・発熱・激しい腹痛となります。 生卵は殻にヒビの入っていないものを食べること、ペットに注意することが重要です。また、ネズミ・ゴキブリが媒体になるので、対策を実施しましょう。
  • 腸炎ビブリオ菌
    寿司や刺身、一夜漬けの魚介類から感染します(潜伏期間8~20時間)。 夏は、生魚介類を買ったら早く水洗いすることが必要です。 激しい腹痛、腐敗臭の水様便、脱水症状治療が必要になります。
  • ノロウイルス
    牡蠣などの二枚貝から感染(潜伏期間1~2日)し、乾燥する冬に起きやすい食中毒です。 嘔吐・下痢が出現しますが、高熱は出ません。 毒性は強くはありませんが、感染力は強いので、免疫力の落ちた高齢者、高齢者施設などで集団発生することがあります。 口から入ったノロウイルスは、人の小腸の中でのみ増殖して長期間生存し、発症後2~3週間は糞便中に排泄されます。 嘔吐物や便は、マスクを着用し、使い捨て手袋で密封処理しましょう。200~1000ppmの次亜塩酸ナトリウムによる消毒が有効です。ドアノブや手すりの消毒は家庭用塩素系漂白剤10mlを水2.5ℓで薄めた液を、嘔吐物や便は漂白剤10mlを水0.5ℓで薄めた液を使用します。

[非感染性下痢症]
 寝冷え、食べ過ぎ、飲みすぎや食物アレルギーが原因となります。

◇慢性下痢症
 下痢が2~3週間も続いたり繰り返したりするもので、血便や発熱のない状態です。

[過敏性腸症候群(IBS)]
 数か月以上続く腹痛と排便障害で生活の質の障害を呈し、排便により症状が軽減します。ストレスや疲労で交感神経のバランスが乱れたものと思われます。 症状には下痢型・便秘型・混合型の3種類があります。便潜血検査が陰性で、血液検査で異常がなく、大腸内視鏡検査で器質的疾患を否定したうえで診断します。 原因不明と言われて長く腹痛・排便障害で苦しんでいる方は、ぜひご相談ください。

●血便について知ろう

 血便を認める疾患には、痔疾患・直腸がん・炎症性腸疾患・感染性腸炎・虚血性大腸炎などがあります。 黒色便の場合は血液が胃酸で酸化され、コーヒーの残渣(残りかす)のようになります。胃出血や十二指腸潰瘍出血などの上部消化管出血で黒色便になると、貧血が起こります。 血便があるからといって、「痔からの出血」だと自己判断しないで、ご相談ください。

●肛門腫脹について知ろう

 肛門部に腫脹をきたす肛門疾患には、いぼ痔(脱出性内痔核Ⅲ~Ⅳ度、外痔核)と 肛門周囲膿瘍、痔瘻があります。

  • 脱出性内痔核
    内痔核はⅠ度からⅣ度までに分類されますが、脱出性内痔核はⅡ~Ⅳ度が該当します。
    Ⅰ度内痔核:直腸内で腫脹しているもので、脱出や痛みはなく、出血があります。
    Ⅱ度内痔核:排便時に肛門外に脱出する内痔核ですが、自然に肛門内に戻るもの
    Ⅲ度内痔核:排便時に肛門外に脱出し、指で戻さないと自然には戻らないもの
    Ⅳ度内痔核:常に脱出している内痔核
  • かんとん痔核
    Ⅱ~Ⅲ度の内痔核が血流障害を起こし、簡単には戻らず激痛をきたすものです。
  • 外痔核
    肛門上皮にできた外痔核は、痛みを伴ういぼ痔です。血栓(血の塊)をつくると、痛みの強い血栓性外痔核となります。普通、出血はありません。
  • 肛門周囲膿瘍・痔瘻
    ポリエチレングリコール製剤で、大腸内視鏡検査前処置にも使用します。
  • 刺激性下剤
    直腸と肛門上皮(肛門の筒)の境の部分に肛門小窩(陰窩)という窪みがあり、肛門腺という管につながっていますが、ここが感染して膿が溜まってきます。 下痢気味の若い男性に多いのですが、疲れや飲酒でさらに悪化し、強い疼痛・発熱があり、膿瘍が触れれば、痛い肛門周囲膿瘍になります。筋肉の隙間から肛門深くに膿瘍が広がると、排便時痛と高熱が出現します。 こじれる前に受診してご相談ください。

●肛門出血について知ろう

 排便時や下着に赤い血が付くという症状があるときは、大腸からの出血か肛門からの出血かの鑑別が一番大切です。

[大腸からの出血の場合]
 大腸がん、慢性炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎、クローン病)、感染症(カンピロバクター、サルモネラ、腸管出血性大腸炎、アメーバ赤痢)、虚血性大腸炎、大腸ポリープ、大腸憩室症などありますが、感染性大腸炎を否定するためには便培養が必要です。さらに大腸内視鏡検査が必要ですので、ご相談ください。

[肛門疾患からの出血]
 まず肛門指診・肛門鏡検査を行います。

  • 痔核
    内痔核は肛門指診で痛みのない痔核です。直腸内粘膜が怒張して、硬便や下痢便のときにいきんで排便したり、長くトイレでしゃがんでいると出血します。 外痔核も同様の原因ですが、痛みを伴います。普通出血はありませんが、血栓性外痔核が破れて出血することはあります。
  • 裂肛(切れ痔)
    硬便や下痢便をいきんで出して肛門の皮膚が裂け、出血と肛門痛を伴います。確実に治療をしておかなければ、慢性化して手術が必要になります。
  • 直腸粘膜脱症候群
    いきんで排便をする習慣があり、拭きすぎが原因になることもあります。女性の肛門前方にできることが多いのですが、時に肛門直腸がんとの鑑別が必要な場合もあります。

 肛門からの出血は、排便習慣が悪いこと、飲酒の多いとき、妊娠出産、中腰の力仕事が原因になります。出血があれば、受診してください。

新着情報一覧に戻る
トップページに戻る
このページの上へ