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かかりつけ医を持ちましょう 『迷ったときのかかりつけ医広島①、女性の病気』(2017年4月刊行)より

広島県参与(医療担当)浅原 利正

浅原 利正

あさはら・としまさ。
三次市生まれ。
1971年広島大学医学部卒。
1984年医学博士。
専門は消化器外科学、臓器移植。同大病院、県立広島病院などで臨床に従事。
広島県北部山間部にある西城町(現・庄原市)の国保直営西城病院でへき地医療も経験した。
1999年広島大医学部教授。
2002年同大大学院医歯薬学総合研究科教授。
2004年同大病院長。
2007年から2015年まで広島大学長。
2015年同大名誉教授、広島県病院事業管理者・広島県参与(医療担当)。
2021年4月より現職。

広島大学病院で肝臓がんの外科治療や生体部分肝移植術の普及をリードし、同大病院長、大学長、広島県病院事業管理者としても手腕を発揮。現在は広島県参与(医療担当)を務める浅原氏に、患者にとって良いかかりつけ医とは、さらにこれからの広島県の医療のあり方などを聞いた。

県民一人ひとりが、かかりつけ医を

今の医療制度の中では、診療所(開業医)と病院(総合病院)の果たす役割には違いが求められます。病院へ患者さんがいきなり行けば、勤務医はさまざまな段階の患者さんを診なければならず、患者さんにとっても、検査が多く、しかも長い待ち時間の揚げ句、後日検査をというのでは大きな負担になります。

一人ひとりの県民がかかりつけ医を持ち、かかりつけ医が入り口となって、必要なときに必要な検査・治療を受けて、必要があれば病院へ紹介するという仕組みづくりをしなければ、医療制度の仕組みが破綻し、社会保障制度の負担は膨らむばかりで、私たちだけでなく次の世代にまでのしかかります。

現在、国全体でかかりつけ医と病院の役割分担をして、医療資源(医療人、医療機器、薬剤など)を有効活用し、しかも十分な医療を受けられる体制をつくろうとしているところです。

「病院完結型医療」から「地域完結型医療」へ

医療資源の効率化を図るためには、「病院完結型医療」から「地域完結型医療」へシフトする必要があります。

広島県では、保健医療の基本的単位として県内を7つに分け、医療圏を設定しています。広島、広島西、呉、広島中央、尾三、福山・府中、備北の各医療圏です。

このうち都市部の広島医療圏は高齢者が増え、島しょ部である大崎上島町などは人口も高齢者も減っています。地域によって医療需要が違い、医療支援の乏しい中山間地域では、例えば備北医療圏などは診療所、三次市医師会病院、三次中央病院、西城市民病院、庄原赤十字病院との医療連携が進んでいます。一方、都市部になるほど、病院間の連携が進んでいない傾向があります。

そんな中、地域完結型医療のシンボルとして2015年に開設されたのが、広島駅北口の「広島がん高精度放射線治療センター」です。広島市内の4つの基幹病院(広島大学病院、広島市立広島市民病院、県立広島病院、広島赤十字・原爆病院)の放射線治療分野にかかわる機能を集約し、県内の医療機関と連携して、高度医療の提供と人材育成をめざした、国内初の施設です。医療資源を集約することで、レベルの高い治療を受けられ、治療成績も向上し、患者さんにとって大きな効果があります。広島県の地域医療連携を広げる第一歩です。

医師は全人的医療を学ぶ経験を

今、医師の世界では、専門化が進んでいます。例えば内科も、呼吸器内科、循環器内科、消化器内科、糖尿病・内分泌内科など細かく専門分野が分かれています。専門医は自分の専門しか診ないのでは、患者さんは困ります。運営する病院も困ることになります。そんな中で、ある程度全人的な相談にものってもらえるかかりつけ医への期待は大きく、かかりつけ医機能が向上すれば、患者さんへの大きな貢献になります。

医師は、専門医でも全人的な相談にのれることが大事だと考えています。患者さんは複数の病気を持っていることも多く、1人の患者さんを診ていく過程で専門以外の他の病気についての知識も付いてきます。それも経験値です。私自身は肝臓外科が専門ですが、かつて4年間、庄原市の西城市民病院でへき地医療を経験したことがあります。そこでは救急も含め、さまざまな患者さんに対応しました。

患者さん全体を診るという経験値は、そんな環境に置かれないと身に付きません。専門性を持つことも大事ですが、そればかりではなく、医師にはこうした全人的医療を学ぶ経験も必要だと思います。

一人ひとりの患者さんが先生

医師は病気を治すことが重要な役割ですが、患者さんに安心感を与えることも忘れてはなりません。私は、医師に大切なのは知識や技術が半分で、患者さんと信頼関係をつくることができる人間性が半分だと思っています。医療は、体だけでなく心も病む患者さんの体と心の両方に対応できければなりません。仮に治らない病気でも、残りの人生を有意義に過ごしてもらえるように言葉をかけ、心を癒すことのできる臨床医であることが大切です。それは勤務医にも開業医にも求められますが、特にかかりつけ医には不可欠です。

それができるためには、ある程度の臨床経験が必要です。臨床医にとって患者さんから学ぶことは多く、一例一例の患者さんから学ぶ、その積み重ねは非常に重要です。もし若いなら、自分にはそれが足りないという姿勢で真摯に患者さんに向き合うことが大切です。

病院とかかりつけ医の2人の主治医を持つことが大切

私が患者さんにアドバイスしたいことは、「病院とかかりつけ医の2人の主治医を持ちましょう」ということです。基本的にはかかりつけ医で診てもらい、半年に1回など定期的に病院でチェックしてもらう。また、高度な検査・治療・入院が必要になった場合も病院へ行っていただきます。

かかりつけ医と病院の間には、例えば手術後の回復期を過ごす回復期病院も必要になるでしょう。病院(基幹病院)、回復期病院、地域のかかりつけ医との「垂直連携」を築くことで、患者さんは適切な医療を受けることができます。そうした医療の垂直連携の中で、入り口であり、出口でもあるかかりつけ医の役割は重要です。かかりつけ医が、地域コミュニティを支えているのです。

1人の医師(かかりつけ医)に全て相談できれば、患者さんにとってはベストです。また、そういう役割分担がきちんとできれば、患者さんの負担、医師の負担、医療費の負担も軽減されます。

患者さんから見ると、かかりつけ医に一番求められるのは、1つの病気だけでなく、心の悩みも含めて、何でも話せて気軽に相談でき、それを理解して適切なアドバイスができることです。一方、医師は、迷ったら、「患者さんの視点で考えること」が原点です。患者さんにとってどっちがいいかを考えて判断すれば、治療の方向性を誤ることはありません。安心できるかかりつけ医とは、常にそういう姿勢で診療してくれる医師のことです。

教育も、医療も、社会の大事なインフラです。その基本にあるのは、信頼関係です。信頼できる医師がいれば、患者さんも安心して相談でき、診てもらえます。信頼関係を大事にしていけば、必ずいい社会になります。

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