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肝臓の病気とうまく付き合うには

広島大学大学院 医系科学研究科 医療イノベーション共同研究講座 教授茶山 一彰
(前 広島大学病院 消化器・代謝内科 診療科長、教授)

茶山 一彰

ちゃやま・かずあき。
1981年広島大学医学部医学科卒業。
1981年医療法人同仁会耳原総合病院内科医員。
1986年国家公務員共済組合連合会虎の門病院内科医員。
1996年同病院内科医長。
2000年文部科学教官教授(広島大学医学部内科学第一講座)。
2002年広島大学大学院医歯薬学総合研究科創生医科学専攻先進医療開発科学講座 消化器・代謝内科学(旧内科学第一講座)教授。
2005年広島大学病院副病院長。
2009年広島大学副理事(医療企画・地域医療担当)。
2011年広島大学病院病院長。
2012年広島大学大学院医歯薬保健学研究院 消化器・代謝内科学教授。広島大学理事(医療担当)および副学長(医療担当)。
2015年広島大学学長特命補佐。
2021年4月より現職。
現在は土谷総合病院(火曜午前)、山﨑病院(月曜午前)、メープルヒル病院(第2第4木曜午前)、高陽ニュータウン病院(第1第3木曜午前)で外来を担当。

自覚症状がなく、知らないうちに重症化していることもあるという肝臓の病気。広島県では、委託する医療機関や各保健所で肝炎ウイルス検査を無料(一部の自治体は有料)で実施していますが、十分認知されていないのが現状です。肝臓病の検査と治療法、最新の動向やかかりつけ医の役割について、広島県のオピニオンリーダーの一人である広島大学大学院 医系科学研究科 医療イノベーション共同研究講座 教授の茶山一彰先生に話を聞きました。

※以下の解説記事は、2017年12月に取材・掲載した内容になります。

C型肝炎は肝がん原因の約50%

肝臓が「沈黙の臓器」と呼ばれているのは、ご存知の方も多いのではないでしょうか。これは、病気になっても症状が現れにくいことから、こう呼ばれています。だから肝炎ウイルス検査を受けていない人がまだ沢山あります。感染を知らずに放置していると、気づいたときには重症化していることも少なくありません。

慢性的に肝炎を引き起こすウイルスのほとんどは、B型とC型です。どちらのウイルスも、輸血など血液を介して感染します。B型肝炎ウイルスは思春期以降に感染すると大半が一過性感染で終わりますが、3歳未満で感染した場合は多くは慢性化します(主に母子感染)。

C型肝炎ウイルスは国内における肝がんの原因として最も多く、全体の約50%を占めています。ウイルスを排除しないままでいると、慢性肝炎となります。慢性肝炎は少しずつ進行し、10〜30年の経過で肝硬変や肝がんへと進行する恐れがあります。このC型肝炎にかかっている人は全国で150万人いると推定されており、広島県内は全国平均より多い傾向にあります。

ウイルス性の肝炎以外では、肝細胞に脂肪が蓄積する脂肪肝があります。原因は肥満や過度の飲酒ですが、中にはアルコールを飲まないのに肝硬変や肝臓がんの発症母地になる非アルコール性脂肪肝炎(NASH)という病気があります。

内臓脂肪といえば、メタボリックシンドロームを気にされる方もおられるでしょう。原因としては、やはりカロリー過剰(過栄養)です。過食は控えなければなりません。

C型肝炎の画期的な治療薬「インターフェロンフリー」

C型肝炎ウイルスの治療は、これまで、体の免疫力を高めウイルスに打ち勝つ「インターフェロン」という薬が使用されていました。その後、研究が進み、2014年に「インターフェロンフリー」という画期的な治療法が登場しました。この薬は副作用が格段に少なく、治療期間も8~12週間と短いのが特徴です。改良型がどんどんできてきており、今は95%以上の効果があります。

C型肝炎は治癒する疾患ですが、ウイルスがいなくなってもまれにがんができてくる人がいます。治癒している人でもウイルス感染が元々なかった人に比べると、がんになる頻度が高くなりますので、気を付けなければいけません。当院では定期的にフォローアップをしています。

B型肝炎は、急性肝炎の場合、基本的には無治療でウイルスが排除されます。しかし、慢性肝炎の場合、ウイルスを体から完全に排除することはまれにしかできないことが分かっています。

治療には「インターフェロン」あるいは「核酸アナログ製剤」という薬で、ウイルスの増殖を抑えます。インターフェロンはウイルスに対する抵抗力を高め増殖を抑えます。核酸アナログは薬を飲んでいる間はウイルス量が低下し、肝炎は起こりません。しかし、薬を中止すると肝炎は再燃します。現在の治療薬ではウイルスの完全な排除は期待できません。これがB型とC型の根本的な違いです。B型肝炎の患者さんは、薬を自己判断で中止してはいけません。

肝がんに関しては、切除して取り除くほか内科治療として皮膚の表面に特殊な電極針を刺し、ラジオ波という高周波で発生させた熱で肝がんを焼く「ラジオ波焼灼術」、がんに栄養を運んでいる血管を人工的にふさいで、がんを“兵糧攻め”にする「肝動脈塞栓術」、カテーテルから抗がん薬を肝動脈に直接注入する「動注化学療法」があります。服用薬には、がん細胞の増殖や進展を抑える「ソラフェニブ」も使用します。

肝炎ウイルス検査は無料なので、ぜひ受診を

血液検査で肝炎ウイルスの有無を調べたことがない方は、ぜひ一度受診してください。肝疾患は自覚症状がなく、症状が出てきた頃には末期になっている場合があるので、知識の普及の重要性を痛感します。会社の健康診断などでも検査項目にB型肝炎・C型肝炎がないところもあります。県内では6割くらいの方が調べていない状態です。年代は関係ありませんが、一生に1回は受診しておいた方が良いですね。検査は無料ですので、特に60歳以上の人に強くすすめます。

肝がんの診断はエコー検査でもある程度は分かりますが、これはかなりの技術が必要ですので、経験値の高い医師が良いです。やはり、CTやMRIでしか検出できない場合もあるので、総合病院で検査してください。

肝臓病があると分かったら、すぐ専門機関で診てもらってください。そのあとは、定期的に専門医へ行くことをおすすめします。気になる治療費ですが、国や県からの補助がありますので患者さんの自己負担は1万〜2万程度です。

肝炎ウイルス検査は市などの補助により、だいたいどこの機関でも受診可能で、無料です(一部の自治体は有料)。当院に開設している「肝疾患相談室(☎082-257-1541)」でも検査が受けられます。患者さんはもちろん、そのご家族の不安や疑問にも対応しています。相談は無料ですので、分からないことなど、お気軽にお問い合わせください。

肝臓病の専門機関とかかりつけ医の連携と役割

現在、広島県内では広島大学病院と福山市民病院が肝疾患診療連携拠点病院に指定されています。拠点病院の役割は、医療従事者や地域住民を対象とした研修会や講演会などを開催し、地域の医療機関の肝疾患診療のレベルアップを図ることです。また、かかりつけ医と肝臓病専門医が病診連携し、それぞれの役割に応じた診療体制をサポートしながら患者さんへ早期に適切な医療を提供する「広島県肝疾患診療支援ネットワーク」も構築しています。

かかりつけ医として重要なこと

私が考える良いかかりつけ医とは、患者さんが治療の途中で通院を中断してしまわないよう、継続的に面倒を見てくださる医師です。「症状がないから、まあいいか」という気持ちになりがちですが、それを放っておいたらいけないということを、きちんと説明していただきたい。脂肪肝の人に対しては、丁寧な生活指導(食事や運動など)をしてくださる人が理想のかかりつけ医です。

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