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糖尿病を知り、生活習慣病と上手に付き合っていくために

広島大学病院 内分泌・糖尿病内科 診療科長/広島大学大学院 糖尿病・生活習慣病予防医学 教授米田 真康

米田 真康

よねだ・まさやす。
1974年生まれ。
1999年広島大学医学部卒業。
2011年広島大学病院内分泌・糖尿病内科助教。
2014年同科講師。
2016年同科診療科長。
2018年広島大学大学院糖尿病・生活習慣病予防医学寄附講座教授。
日本糖尿病学会専門医・研修指導医・学術評議員・支部幹事。
広島県糖尿病療養指導士認定機構(http://www.hcde.jp/)理事。
広島県医師会(http://www.hiroshima.med.or.jp/)糖尿病対策推進会議幹事。
広島県地域保健対策協議会(http://citaikyo.jp/)糖尿病対策専門委員会委員長。

糖尿病をはじめとする生活習慣病は、日本人の生活習慣の欧米化とともに増加傾向にある慢性疾患です。厚生労働省の国民健康・栄養調査では、「糖尿病が強く疑われる者」は1000万人を超え、2019年ではその割合は男性19.7%、女性10.8%と推計され、この10年間で最も高い数字となりました(図1)。
ここでは、糖尿病を中心に診療等の概要や、県内の医療体制の現状、最近のトピックについて、広島大学糖尿病・生活習慣病予防医学の米田真康教授に話を伺いました。

糖尿病をはじめとした生活習慣病はさまざまな疾患につながる

さまざまな原因により全身の組織で糖代謝(糖を利用した一連の化学反応)が障害され、血糖値(血液中の糖の濃度)が異常に上昇するのが「糖尿病」です。そして、糖代謝を調節し、血糖値を下げて一定に保つのが「インスリン」という生理活性物質(ホルモン)です。

インスリンは膵臓で産生・分泌され、肝臓や筋肉、脂肪組織で糖を取り込んでエネルギーに利用するなどの作用があります。膵臓からのインスリンの供給と組織のインスリン必要度のバランスが崩れると、インスリンの作用不足が生じ、血糖値が正常範囲内を保てずに異常に上昇するわけです。

糖尿病のほか、脂質異常症や高血圧症は、加齢や家族歴など遺伝素因の影響もありますが、食生活の欧米化や運動不足といった環境因子の関連が大きく、これらは「生活習慣病」と呼ばれており、それぞれが動脈硬化の危険因子と考えられています。そして、肥満(特に内臓脂肪の蓄積による腹部肥満)を基盤にして、このような多くの危険因子が複合した状態を「メタボリックシンドローム」と総称しています(図2)。

糖尿病や脂質異常症は発症初期の軽微な段階では自覚症状がないため、血 液検査を受けないかぎり、自分がその病気になっていることにまったく気付きません。異常に気付かないまま何不自由なく過ごしていても、血液中の糖や脂質の濃度を高いまま放置すると、全身の血管が障害されていきます。

糖尿病の場合、細い小血管が障害されると眼(網膜)や腎臓、神経に特有の合併症を生じます。また、糖尿病だけでなく脂質異常症や高血圧症、さらに喫煙でも脳や心臓の太い大血管は障害され、脳梗塞や狭心症、心筋梗塞などの動脈硬化症を引き起こします(図2)。

「糖尿病」と診断されるとき

糖尿病の検査として、採血による血糖値の測定と、「HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)」という1~2か月間の平均血糖を示す指標が用いられます。

健康診断では、血糖値が「①空腹の場合は110mg/dL未満が正常型、126mg/dL以上が糖尿病型」、「②随時(食後)の場合は140mg/dL未満が正常型、200mg/dL以上が糖尿病型」と判定されます。そして、別の日の検査で再度(つまり2回以上)糖尿病型と判定されると、糖尿病と診断されます。また、HbA1c値は6.5%以上が糖尿病型であり、1回の検査でも血糖値とHbA1c値がともに糖尿病型であれば、糖尿病と診断されます(図3)。

ただし、空腹時の血糖値は正常範囲内であっても、「血糖スパイク」(食後の短時間〈多くは1~2時間〉に血糖値が急上昇する)と呼ばれる食後高血糖に注意が必要です。糖尿病の前段階であるとともに、血管を障害して動脈硬化を生じることが知られています。これを見逃さないために、血液検査では空腹時血糖値ばかりでなく、食後の血糖値やHbA1cを組み合わせて測定することが大切です。

食事や運動療法で生活習慣の改善を

生活習慣病の中でも、特に糖尿病の治療の原則として生活習慣が乱れている場合(過食、運動不足など)、まずそれらを適正に改善することが重要です。

食事療法の基本は、適正な摂取カロリー(量)と栄養素バランス(質)、そして規則正しい食生活です。具体的には、「朝・昼・夕の食事を腹八分」「正しい時間に」「ゆっくりよく噛んで食べる」などです。野菜や海藻、きのこなど食物繊維を多く摂り、飽和脂肪酸(乳製品や肉などの動物性脂肪に多く含まれる)を摂り過ぎないこと、また、単純糖質(砂糖や果糖)を多く含んだ菓子類の間食やインスタント食品を控えることです。高血圧に対しては、減塩も忘れてはなりません。

運動療法は、個人の身体機能や基礎体力、年齢、合併症の有無などに応じて、適切な運動の種類や強度、時間、頻度を決める必要があります。無理な運動はむしろ健康被害となり、長く継続することができません。歩行やジョギングなどの有酸素運動と、筋力トレーニングと呼ばれるレジスタンス運動を併用すると効果が上がります。また、運動前後にはストレッチ(柔軟体操)をするとよいでしょう。さらに、高齢者にはバランス運動が生活機能の維持や向上に有用といわれています。

広島県の糖尿病医療体制について

広島県では、「広島、広島西、広島中央、呉、尾三、備北、福山・府中」の7つの保健医療圏ごとに、急性増悪時治療(低血糖、高血糖性昏睡など)やあらゆる合併症治療に対応するなど、さまざまな医療機能を有する「糖尿病診療拠点病院」「糖尿病診療中核病院」を配置し、各地域の多くの医療機関と連携体制を構築しています(図4)。

これらの病院には、糖尿病専門医のほかに「糖尿病療養指導士(CDE)」と呼ばれる資格を持った看護師や薬剤師、栄養士、理学療法士、検査技師たちがチーム体制をつくり、糖尿病に関する専門的な療養指導や教育活動を実施しています。

しかし、軽症の患者さんたちが診療拠点病院や中核病院にたくさん集中すると、専門医やCDEたちの負担が増え、急性増悪時(救急の際)や重症患者に対応できなくなってしまいます。病状が安定している場合は、普段のきめ細かい診察(血液検査や薬の処方など)は近くのかかりつけ医で行い、数か月~半年ごとに糖尿病診療拠点病院や中核病院を受診してくわしい合併症の検査を受けたり、CDEに食事や運動の生活指導をしてもらうのが良いと思います。

地域全体で数に限りのある糖尿病医療資源を有効に活用してもらえれば、糖尿病の重症化防止や合併症の発症予防が十分可能だと思います。

ITなどを活用した県下の新たな取り組み

2019年8月、広島大学に「ひろしまDMステーション(https://hmadec.hiroshima-u.ac.jp/wp/dms/)」が設置され、専属の看護師や管理栄養士、理学療法士が各1人ずつ所属しています。

糖尿病診療拠点病院や中核病院がない地域のかかりつけ医に通院する糖尿病患者さんのスマートフォンと、かかりつけ医やひろしまDMステーションのシステムを繋げ、さらに、IoT(Internet of Things)デバイス(=もの同士がつながるネットワーク)として、データ送信機能付きの血圧計や体組成計、歩数計機能のスマホアプリを連携させた独自のICT(Information and Communication Technology)ネットワークシステムを構築しました(図5)。

また、2020年4月から県内数か所の地域の医療機関で、ひろしまDMステーションが電話による生活習慣の遠隔指導を行い、食事療法や運動療法を提供するサービスを始めています。広島県のどこに住んでいても、同じように、質の高い糖尿病診療を安心して受けられることが期待されています。

県民のみなさんへメッセージ

最後に、糖尿病などの生活習慣病は根治するための薬があるわけではなく、また、手術や放射線治療で治癒させることはできません。生活習慣の乱れを改善し、食事や運動療法を根気よく継続することが必要です。そのために、地域が一つになって一緒に生活習慣の改善に楽しく取り組み、生活習慣病と上手に付き合いながら前を向いて歩んでいきましょう。

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