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高血圧など循環器系疾患との上手な付き合い方

広島市民病院 循環器内科 主任部長・救命救急センター 医師塩出 宣雄

塩出 宣雄

しおで・のぶお。
1987年広島大学医学部卒。
広島大学附属病院、小倉記念病院、松江赤十字病院、あかね会土谷総合病院などを経て、2016年広島市民病院循環器内科主任部長就任。
日本循環器学会専門医。
日本内科学会総合内科専門医。
日本心血管インターベンション治療学会指導医。
医学博士。
広島大学臨床教授。

国内において治療中の患者が最も多い病気は、高血圧性の疾患です。高血圧は、心疾患や脳血管疾患などの死亡リスクの高い病気とも関わりが深く、患者数は増加傾向にあります。また最近では、糖尿病・脂質異常症などの生活習慣病の患者数も増加しています。ここでは、生活習慣病を中心とした循環器系の病気とどう付き合えばいいのか、またかかりつけ医の役割について、広島市民病院循環器内科の塩出宣雄主任部長に話を聞きました。

「薬を飲んで血圧を下げた方が長生きできる」

高血圧は日本人に多い病気ですが、適切に治療をしなければ全身の動脈硬化を引き起こし、将来的には心臓病や脳卒中などのさまざまな病気になる場合があります。心臓病になりやすい危険因子としては、高血圧・脂質異常症(高脂血症)・糖尿病・喫煙の4つが主に挙げられます。

高血圧・脂質異常症・糖尿病には自覚症状がありません。では、自覚症状のない病気を何のために治療するのかというと、これらの病気を放置しておくと、後に心臓病や脳卒中になりやすいためです。つまり、予防医学にあたります。高血圧・脂質異常症・糖尿病は、運動不足、食べ過ぎ、塩分の摂り過ぎなどの生活習慣と、各々の体質に原因があります。治療としては、まずは運動不足や食生活などの生活習慣を改善することで、それらで十分な効果が得られなかった場合には、薬物療法の開始となります。

ここで大切なことは、風邪薬なら風邪が治れば服用を止めればよいのですが、高血圧・脂質異常症・糖尿病などの薬は、内服開始後に血圧・血糖値・コレステロール値が下がっても、服用を止めるとほとんどの人で再び数値が悪化します。なぜなら、これらの病気の原因は生活習慣と各々の体質に原因があるからです。よほど努力して運動をしたり、ダイエットで体重が減少したりしない限り、人間の体質はなかなか変わらないからです。

薬を服用し続けることでの副作用を心配する人がいますが、現在一般に使われている降圧剤(高血圧の薬)の副作用の頻度は極めて低いですし、降圧剤には大きく6種類の作用機序の異なる系統の薬があり、同じ系統の薬にも少しずつ効果や副作用の異なる多くの種類の薬がありますから、副作用が起こったら別の薬に変えればよいのです。副作用を気にして飲まないより、「薬を飲んで血圧を下げた方が長生きできる」という科学的なデータもあります。高血圧をそのままにしておくと、腎臓・心臓・脳・血管などのさまざまな臓器に悪影響が出ます。中でも怖いのは、心臓病や脳卒中を起こす危険性が高いことです。

食事・運動療法を基本に、薬物療法でコントロール

高血圧の標準的な治療は、まずは食事療法・運動療法といった生活習慣の改善が基本です。白衣高血圧といって、「病院では血圧が高いけれど、家に帰ると低くなる」人もいますから、まずは自宅で血圧を定期的に測り、本当に血圧が高い状態が持続しているかを確かめます。

また血圧が高い場合、年齢・元々の基礎疾患・家族歴などにより、心臓病や脳卒中などのリスクも人それぞれ異なります。すでに心臓肥大・虚血性心疾患・脳血管疾患・腎臓病などの、高血圧による合併症が認められる場合には、すぐに降圧剤の内服治療を開始しますが、リスクが低い場合には血圧をすぐに下げる緊急性はないので、1〜3か月の猶予期間を持って、その間に食生活を改善して適度な運動を心がけてもらいます。それで血圧が下がれば薬を飲まなくてもよいのですが、下がらなかった場合には降圧剤を処方します。

軽症の高血圧であれば、循環器の専門医でなくても降圧剤による血圧コントロールは可能です。ただし、中々血圧が下がらずに降圧剤を3〜4剤必要とするような場合には、循環器専門医によるコントロールが必要です。しかし、降圧剤で血圧がコントロールできて安定していれば、循環器専門医でなくてもかかりつけ医(開業医)に同じ薬を処方してもらえば問題ありません。体調の変化などで血圧が下がり過ぎた場合や、逆に上がってきたりした場合には、再び専門医にかかって調整してもらえばよいと思います。そこで再度血圧コントロールができたら、再びかかりつけ医で診てもらえばよいのです。

高血圧の薬は一生飲み続ける必要がありますから、近所のかかりつけ医で長期間にわたって診てもらう方が、患者さんにとってはメリットが大きいと思います。

かかりつけ医にかかるメリットとは

狭心症や心筋梗塞になった場合には、専門の総合病院で治療して、治療が終わればそれらが再発しないように、より厳格に高血圧・脂質異常症・糖尿病などの治療を行います。そしてこれらの疾患が安定してくれば、近くのかかりつけ医のもとで2次予防としての治療の継続となります。

ただ、一度心臓病になるとほとんどの人が不安に感じ、「何かあったときに心配だから……」といって、そのまま総合病院の外来で治療を希望する患者さんが大勢います。しかし、何かあったときにはかかりつけ医の指示で専門医のいる総合病院に行くことになりますから、総合病院・かかりつけ医のいずれにかかっていても、きちんと専門医に診てもらえるので大丈夫です。むしろ、かかりつけ医での簡単な検査や処置で問題が解決することもあり、総合病院まで行く必要がないこともあるので、患者さん・病院の両方にメリットがあります。

さらに、かかりつけ医は全身を診てくれるため、心臓病以外の病気になったときも適切な専門医に紹介してもらえるので安心です。総合病院の循環器内科の外来で「お腹の調子が悪い……」と言われても、専門外の疾患には対応できないことが多いのです。

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