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耳鼻咽喉科疾患の最新治療とかかりつけ医の役割

広島県病院事業管理者(前 県立広島病院 院長)平川 勝洋

平川 勝洋

ひらかわ・かつひろ。
1977年広島大学医学部卒。
1980年帝京大学医学部助手。
1981年広島大学助手。
1982年カナダ・トロント市小児病院研究員。
1986年医学博士(広島大学)。
1991年ドイツ・ハノーバー医科大学。
1997年広島大学助教授。
2005年広島大学大学院耳鼻咽喉科学・頭頸部外科学教授。
2015年広島大学理事・副学長、広島大学病院長。
2018年4月広島県病院事業局顧問。
前県立広島病院院長。
2021年4月より広島県病院事業管理者。
日本鼻科学会理事。
日本頭頸部外科学会理事。
日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー学会理事。

耳鼻咽喉科の領域は、耳・鼻・喉の疾患はもちろん、顔や首の疾患も診療の対象となります。耳鼻咽喉科疾患の動向や最新治療、かかりつけ医の役割などについて、広島県病院事業管理者である平川勝洋先生に話を聞きました。

嚥下障害をチームでサポート

耳鼻咽喉科がカバーするのは「聞く」「話す」「食べる」「呼吸」という、人間の日常生活に欠かせない分野です。昔から疾患として多いのは上気道の感染症、いわゆる中耳炎・鼻炎・副鼻腔炎などですが、最近患者さんの数が急増しているのが、アレルギー性鼻炎や花粉症です。
また、高齢化が進む中で話題になっているのが誤嚥性肺炎で、嚥下(飲み込み)の診断・治療に重点が置かれています。誤嚥の判定ができるのは耳鼻咽喉科だけで、脳血管障害で嚥下できない患者さんが上手に食べられるようになるためには、耳鼻咽喉科医の担う役割が大きいです。
嚥下障害に関しては、私たち耳鼻咽喉科医のほか、歯科医・看護師・言語聴覚士・管理栄養士などがサポートチームをつくって、入院患者さんに対応するのが原則です。今後は、患者さんが退院して家に帰ってからの在宅ケア(地域包括ケア)にも、耳鼻科医が積極的に関わっていこうという議論が行われています。広島県でも最近、嚥下障害診療における在宅医療検討委員会を年に3~4回開催し、症例検討会を行って在宅ケアに積極的に取り組もうとしています。

花粉症に良質な薬が登場

花粉症などのアレルギー性疾患は、生活環境や食生活が関わっているといわれていますが、基本的には体質が主因です。今や、国民の3~4割に素因があるといわれているほど数多い疾患です。治療は薬物治療が主で、最近は良い薬がたくさん出ており「眠気を催さない」「効果が高い」「持続時間が長い」などの薬が開発されています。
しかし、花粉症は命に関わる病気ではないため、医療機関を受診する患者は4割程度。そのうち、耳鼻科を受診するのは症状の重い1~2割の人だけで、かかりつけの内科や整形外科で処方してもらう人が多いのが現状です。実際に鼻の中の所見をとって、症状に合った治療が的確に行えるのが耳鼻科の強みです。重症になると、投薬ではなかなか効果が得られないため、レーザー治療などの手術的治療が必要なこともあります。

慢性副鼻腔炎と中耳炎の治療

慢性副鼻腔炎(蓄膿症)は、昔と違って現在は良い薬があるため、薬物治療で約7割が治ります。かつては、いわゆる鼻たれ小僧といわれる副鼻腔炎の子どもがたくさんいました。細菌感染が原因でしたが、現在はそうした副鼻腔炎は減少し、代わりに40~50歳代以上に多い、喘息などのアレルギーと関係のある新しい副鼻腔炎が増加しています。治療や手術の方法も1990年頃から変わってきており、低侵襲(体への負担が少ない)な手術になっています。
また、子どもに多い急性中耳炎にも良い薬(抗菌剤)が開発されています。一時、耐性菌が問題になりましたが、現在は学会のガイドラインで抗菌剤の使い方が定められており、開業医でも十分に治療が可能です。慢性中耳炎も少なくなり、全国的にも手術件数は減少しています。そうした背景には「良い薬が開発されてきたこと」「内視鏡・手術用顕微鏡が普及して、診断技術が上がっていること」「CT・MRIで的確な診断が可能なこと」などがあげられます。

増えている高齢者の難聴

難聴には、突発性難聴と感音難聴があります。
突発性難聴は治る可能性がある神経性難聴で、早期に医療機関を受診して治療した方が、治る可能性が高いというデータがあります。発症後1か月が経つと治る可能性は低くなり、1~2週間以内に治療した方が良い、準急患のような疾患です。原因は現在でも不明で、治療はステロイド投与が標準的です。
感音難聴の多くは加齢によるもので、年齢とともに徐々に聴力が落ちてきます。高齢者の難聴は増えており、昨今その対応に力が入れられています。通常は治らないことが多く、補聴器を使うことになる人が多いです。補聴器選びで失敗しないためには、耳鼻科で診断・聴力検査を行ったあと、医師から補聴器販売業者を紹介してもらうことをお勧めしています。大きな音を長く聞くことは難聴の原因になり、ヘッドホンの大きな音による若者の難聴も問題になっています。

めまいは、まず耳鼻科を受診しましょう

めまいは、耳が原因で起こる内耳性のめまいと、脳腫瘍などの中枢性のめまいがあります。耳鼻科で治療するのは内耳性のめまいで、中でも最も頻度が高いのは良性発作性頭位めまいです。めまいが起きて原因が分からない場合は、まずは耳鼻科を受診して検査を受け、中枢性が疑われたらMRI検査となります。めまいを繰り返すと、内科などでメニエール病と誤診断されることがありますが、メニエール病は決して多くはない病気です。めまいの診断は、耳鼻科であれば開業医クリニックでもある程度可能ですが、詳しい検査は大きい総合病院などが適切です。めまいに対する特効薬はなく、血圧や血液循環を良くしたり、吐き気を抑えるなど、内服薬による対症療法的な治療になります。
がんは、首から上のがん(喉頭・咽頭・舌)が耳鼻科の領域で、治療は大きな総合病院で行います。増加傾向にあるのが咽頭がんで、中でも中咽頭がんは子宮頸がんと同じく、ヒトパピローマウイルスが原因で起こることがあるため、子宮頸がんのワクチンが普及すれば減少する可能性があります。

話をよく聞いてもらえるかかりつけ医へ

耳鼻科の一般的な病気は、例えば副鼻腔炎でも投薬による保存的治療で治るようになってきており、普段は自分の通いやすいかかりつけのクリニックで診てもらうのが一番です。そこで何か月か治療しても、コントロールが難しかったり、なかなか治らなければ大きな病院に紹介してもらい、手術などを選択することが治療の流れとしては最適です。もし大学病院などへ飛び込みで来院してみても、まずは薬で様子を見ることになるのが現実です。
広島県の耳鼻咽喉科医療のレベルは高く、勉強会などにも頻繁に参加される熱心な開業医の先生も多くおられます。経験がある程度あり、一定基準の検査がきちんとできて、自分の守備範囲を超える場合は専門の大きな病院へ早期・的確に紹介してくれる先生が身近にいることが望ましいです。患者さんにとっては、自分の要望をきちんと伝えることが重要で、話をよく聞いてもらえるかかりつけ医を選びましょう。

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