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脳神経外科診療の最新動向 ――内視鏡手術とかかりつけ医の活用法

県立広島病院 脳神経外科 主任部長富永篤

富永篤

とみなが・あつし。
1988年広島大学医学部卒業。
双三中央病院、尾道総合病院に勤務後、1995年広島大学医学部脳神経外科助手、同年医学博士、2005年講師、2012年准教授。
2015年4月より現職。
日本脳神経外科専門医。
日本脳卒中学会専門医。
日本神経内視鏡学会技術認定医。
日本間脳下垂体腫瘍学会監事。

近年、脳神経外科で重視されているのが、脳や神経への侵襲(ダメージ)を最小限に抑える低侵襲手術です。その一つが、頭を大きく切開せずに神経内視鏡を使用する内視鏡手術で、主に脳内出血、水頭症、脳室内の腫瘍の治療に行われます。ここでは、内視鏡手術をはじめ脳神経外科の最新治療の動向などを、脳腫瘍の症例を多く手がけ、卓越した手術に定評がある県立広島病院の富永主任部長に話を伺いました。

脳出血の最新治療――内視鏡手術

脳出血に対する治療は、従来は主に開頭手術でしたが、最近は神経内視鏡手術で血腫(血の塊)を取ること(内視鏡手術)ができるようになっています(下図)。大きな出血の場合は、従来通り開頭手術が必要です。それほど出血が大きくなく、血腫のみを取ればよい場合は、以前は定位的手術(CTで計測して、そこへ針を刺す治療)を行っていましたが、それに代わって内視鏡手術がこの10年ぐらいで広がってきています。
これは、脳に直径1㎝ぐらいの筒を通し、そこに内視鏡を入れて血腫を吸い取る手術法で、侵襲(患者への負担)の程度は変わらずに、針を刺して血を抜いていたときよりも実際に血腫を目視しながら取る方法です。

患者に負担が少ない神経内視鏡手術

神経内視鏡とは、脳内出血・脳腫瘍・水頭症などを治療する際に主に使用する治療機器です。神経内視鏡手術の大きな特徴は、これまでは脳を大きく切開しなければ見えなかった病変部位が、小さい穴から内視鏡を挿入して、観察しながら処置できるようになったことにより、手術時間が短縮してより低侵襲で確実な手術が可能になったことです。
脳動脈瘤の開頭手術や、髄膜腫・聴神経腫瘍などの脳腫瘍に対する通常の顕微鏡下か 手術にも、内視鏡を補助的に使うことで開頭を小さくし、死角を減らしてより確実な手術が可能です。内視鏡手術は、主に神経内視鏡学会の技術認定医がいる施設で行われています。

進化しているくも膜下出血の治療

くも膜下出血は、死亡や寝たきりになる確率が高い恐ろしい病気で、そのほとんどは脳動脈瘤の破裂によるものです。一度破裂した動脈瘤は繰り返して破れるため、くも膜下出血に対する最初の治療は、まずは動脈瘤の処置になります。
動脈瘤の治療には、開頭クリッピング術(頭を開けてクリップする手術)とコイル塞そく栓せん術じゅつ(カテーテルを使い、コイルを動脈瘤内に詰めて動脈瘤を閉塞する血管内治療、P23下図)があります。後者は血管内治療の専門医が必須で、治療法の選択については、動脈瘤の場所やくも膜下出血の状態で見極めます。
現在は、MRIやCTなどの検査機器の精度が上がり、動脈瘤を立体的に評価できるようになって治療に役立っています。また、新しい材質のコイルやステントも開発され、以前は難しかった動脈瘤の血管内治療も可能になっています。
最終的に後遺症が残るかどうかは、最初のくも膜下出血の程度によるところが大きいため、動脈瘤は破れないことが最善です。そのため、脳ドックなどで未破裂の動脈瘤が見つかった場合、動脈瘤の大きさや形によっては治療(手術)を考慮する必要があります。
しかし、未破裂動脈瘤に対する治療によって、脳梗塞や脳出血が起こる危険性も数%ながらあり、一方で、治療しない場合に1年間に破れる確率は1~2%程度ともいわれています。そのため、治療するかどうかは、治療の危険性と動脈瘤の破裂する危険性を天秤にかけることになります。
動脈瘤が破れやすいかどうかは、動脈瘤の大きさ・場所・形によって異なり、治療(手術)か様子観察かの判断は、医師が総合的に診断した上で助言を行います。そして、適切な判断・助言ができるかどうかは、医師の経験や技量、その施設でどの程度治療を行っているかなどによると考えます。

腫瘍摘出で内視鏡が活躍中

脳腫瘍の治療では、良性腫瘍は摘出することが基本で、いかに低侵襲で多く腫瘍を取れるかが重要です。下垂体腺腫に代表される脳下垂体腫瘍は、脳腫瘍の約20%を占める良性腫瘍で、内視鏡が得意とする領域です。
ほとんどの場合、開頭手術を行わずに、鼻の穴から内視鏡を入れて行う経鼻内視鏡手術で摘出が可能です。以前は顕微鏡手術でしたが、現在は内視鏡手術が主流で、従来に比べて格段に治療成績が向上しています。この手術は、脳外科の手術の中では多少特殊な手術であるため、これを的確にできる医師は限られています。
脳の中に水が溜まる病気(水頭症)では、従来はシャント手術(頭の水をお腹の中〈腹腔内〉に流すチューブを埋め込む)だけでしたが、水頭症の一部では神経内視鏡によって治療することが可能になりました。

手術用機器の進歩が患者にメリットを与える

最近では、ナビゲーションシステムを導入している施設もあり、手術の前に腫瘍の範囲をあらかじめ見極めて、手術中に腫瘍の場所を示してくれるという点で大変有用です。悪性腫瘍の一部(神経膠腫)では、手術中に肉眼では正常の脳と見極めにくい腫瘍の部分を描出する造影剤が、ここ5年程度で広く普及してきています。
手術室にMRIを設置している施設もあり、手術中に残っている腫瘍をリアルタイムで判別できるようになっています。また、神経モニタリング(手術中に神経刺激の脳波を取って、手術中に神経の異常の有無を知る方法)も行われるようになっています。このように、脳神経外科では技術・機器・薬剤などが近年大きく進歩しています。

かかりつけ医を受診して脳の病気の予防を

脳出血、脳梗塞、くも膜下出血といった病気は、脳の血管の異常によって起こる病気です。その根本には、高血圧、糖尿病、心臓病(不整脈)、高脂血症などの生活習慣病が一因となっていることがほとんどです。定期的な健康診断で、これらの病気を予防することが脳の病気を防ぐ第一歩ですので、生活習慣病が見つかった場合には、かかりつけ医に受診して治療することが大切です。
また、脳の病気が心配な場合も、まずはかかりつけ医に相談しましょう。脳梗塞や脳出血が一度起きた場合には再発の可能性もありますので、それを防止する意味でもかかりつけ医を持つことは大切だと考えます。
脳腫瘍や脳動脈瘤は早期発見が重要です。脳ドックは、脳の病気が見つからなければ毎年受診する必要はありませんが、中高年期にさしかかったら一度は受けておいた方が良いでしょう。

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