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歯科衛生士が教える健康な歯のためのケアと、上手な歯医者の見つけ方

広島大学病院 診療支援部 歯科衛生部門中岡 美由紀 部門長

中岡 美由紀 部門長

なかおか・みゆき。
1990年大阪聖徳歯科衛生士専門学校卒業。
開業医勤務を経て、1998年広島大学病院着任。
2010年人間総合科学大学卒業。
日本小児歯科学会認定歯科衛生士。
日本障害者歯科学会認定歯科衛生士。

予防歯科や歯周病治療などが注目される中、歯科衛生士が担う役割の重要性は高まっています。患者の状態を細やかに把握して歯科医師と連携し、良い治療には欠かせない存在です。近年、手術前後の周術期等口腔機能管理や高齢者の摂食嚥下障害の回復訓練なども行い、医科歯科・多職種連携でも重要な役割を担っています。ここでは、歯科衛生士の具体的な役割や、健康な体と歯のためのケアなどについて、広島大学病院診療支援部歯科衛生部門の中岡美由紀部門長に話を伺いました。

歯科衛生士の主な仕事について教えてください

歯科衛生士が担っている仕事については、以下の三つが大きくあげられます。

①歯科予防処置/歯垢やバイオフィルム(細菌の固まり)を除去し、むし歯の抑制効果があるフッ素塗布などを行います。

②歯科診療補助/円滑な診療を行うため、歯科医師の診療行為をサポートしたり、患者さんとコミュニケーションを図り、診療室全体のマネジメントも行っています。

③歯科保健指導/患者さんが健康な歯を保つために必要なことについて、専門的な指導やアドバイスなどを行います。

歯科衛生士に求められる役割とは?

高い技術や知識を習得してそれらを磨き、さまざまな場面で患者さんに歯科医療を提供することは前提ですが、患者さんと歯科医師、それぞれと円滑なコミュニケーションで良好な関係を築き、診療をスムーズに進めることも大切です。例えば、患者さんの訴えていることの本質を理解して、見ること・聞くことができているか、その情報を歪曲することなく、正確に歯科医師に伝えることができるかなど、お互いに信頼関係を築いていくためにも、見る目と聞く耳を養うことを怠らないことです。「見る」は「見る、視る、看る、診る、観る」、「聞く」は「聞く、利く、効く、聴く、訊く」など、さまざまな形があります。常に、アンテナを張って状況に応じた「み方・きき方」をする必要があります。

歯と体は密接に関わっており、高血圧の持病を持つ患者さんは、薬の作用で歯肉に影響が及ぶことがあります。この場合は、口腔疾患が原因なのか、薬の影響なのかを見極める知識が必要になり、体全体を見渡して考えることのできる歯科衛生士が求められています。また、歯科医院での感染防止対策や医療安全対策を中心に担っていくことも重要な役割です。

近年、増えている新たな役割とは?

前述の三大業務の中でも特に需要が高まっているのが、周術期等口腔機能管理と高齢者歯科医療です。周術期等口腔機能管理は2012年4月に新設され、主に、全身麻酔による手術の術後肺炎などの合併症や、がん治療に伴って生じる口腔粘膜炎の軽減などを目的に、口腔の管理を行います。現在、高齢者が住み慣れた地域で自分らしい生活を最後まで送ることをめざす、地域包括ケアシステムが推奨されており、医科歯科連携や多職種間連携が進んでいます。高齢者に多い摂食機能障害に対して、歯科医師の指示のもと、摂食機能療法なども行っています。

上手なセルフケアについて教えてください

むし歯や歯周病の原因は「細菌」です。それらを除去するために重要なのが、毎日の歯磨き・ブラッシングですが、各々の歯並びや口腔内の状況によるブラッシングが難しい部位や、自身のテクニックや磨き癖などで歯垢が残る部位があります(下図左)。セルフケアの上達には、その磨き残しを自覚することが大切です。そのためにも一度、歯科医院でブラッシング指導を受けることをお勧めします。歯ブラシの持ち方や動かし方、歯垢がよく落とせる歯ブラシの当て方、磨く順番を決めて磨き残しを減らすなど、自分にあったケアの方法を教えてもらえると思います(下図右)。

また、必要に応じて補助用具を利用することも大切です。歯の形態や歯並びは千差万別で、歯ブラシだけでは十分に磨けないことがあります。代表的な補助用具は、歯間の狭い部分で使える糸ようじ(デンタルフロス)や、歯と歯の隙間に使いやすい歯間ブラシなどがあります(下図左)。歯ブラシだけを使うブラッシングより、補助用具を併用した場合の歯垢除去率は高いことがデータでも示されています(下図右)。

定期的な受診は、歯科疾患のチェックや口腔衛生管理をする上ではとても大切です。ただ、多くの方は「定期的に受診しているから大丈夫」と思われているかもしれません。しかし、定期的な受診を1~3か月に一回とすると、自宅でセルフケアを行う回数の方が圧倒的に多いのです。ですので、定期的な受診とともに、セルフケアを向上させることはとても重要になってきます。毎日、100%の丁寧なブラッシングは難しいかもしれませんが、「1日サボったら、次の日は頑張る」といった気持ちで、ケアしてみてください。

健康な歯のための生活習慣とは?

健康な歯を維持するためには、寝る前の飲食は避けて、しっかりブラッシングをしてから就寝することが大切です。飲食をすると、むし歯菌などの細菌が酸をたくさん分泌しますが、酸は歯の表面の固いエナメル質を溶かしていくため、細菌を口腔内に長く残すことは良くありません。朝昼晩規則正しく食事を取り、よく噛んで唾液の分泌を促すことも大切です。唾液は、初期むし歯に対して、エナメル質の結晶を新しく形成する再石灰化を促して修復を図ります。また、嚥下や消化をスムーズにするなどの多くの重要な役割もあります(図参照)。三度の食事以外の間食や、常に何か口の中に入れておくような「だらだら食い」を控えましょう。

上記のような習慣は、歯だけでなく全身の健康にも良い効果をもたらします。また、口呼吸をすると口腔内が乾燥してウイルス感染のリスクが上がるなど免疫力の低下を招きます。鼻呼吸の癖を付けることも、歯と全身の健康のために大切です。

治療の際の注意点について教えてください

患者さん各々の身体状態で注意する点は変わるため、体の疾患や、どんな薬を服用されているか、アレルギーはあるのかなどを把握し、適切な対応が必要です。例えば、ペースメーカーを装着されている場合は機器に影響を与えることもあり、音波ブラシは使いません。患者さんの些細な変化も見逃さないよう気を付けています。そして、患者さんごとのオリジナルなオーダーメイドの対応を行うことが重要です。

歯科衛生士から見た「良い歯医者」の見分け方は?

患者さんの希望や意見を受け止めながら、患者さんがきちんと理解できるように、病状や治療方針、治療計画、治療のメリット・デメリットなどを分かりやすく説明し、さまざまな状況を考慮して治療の選択肢を与えてくださると、とても安心できるのではないでしょうか(状況によっては選択ができない可能性もあります)。また、感染防止対策や医療安全対策がしっかりとなされている歯科医院も安心できると思います。

歯科衛生士と上手に付き合うコツとは?

治療に携わる歯科衛生士は歯科医師と連携を取って業務を行っていますが、歯科衛生士が関わる場面の多くは、ブラッシング指導や食事・生活習慣指導などだと思います。それらを改善していくためには患者さん自身の行動変容を伴いますが、これまでの習慣を変えるのは本当に難しいことです。「何回も同じことを指摘される」「めんどくさい」「言われたことが上手くできない」など、時には歯科衛生士の指導が嫌になるかもしれません。しかし、そこであきらめず、些細なことでも遠慮せずに感じたことを歯科衛生士に伝えて、しっかり話し合ってみてください。

健康な歯のために必要なことややるべきことを、患者さん自身が気付いて「なるほど」と納得できると、セルフケアや生活習慣も変化していくと思います。歯科衛生士を信頼して、治療に参加・協力していく姿勢が良い結果につながっていくと思います。

今後の歯科衛生士のあり方について教えてください?

医科歯科・多職種の連携は、これからますます増えていきます。ですので、歯科衛生士も高い専門性を持って、他科や多職種のスタッフとエビデンス(科学的根拠)のある意見交換が行えることが重要です。また、高齢者歯科医療に関わる治療などの需要が増したことにより、患者さんの状態などを的確に説明する機会が増えています。歯科の専門家として、自覚を持って知識や技術の向上を心がけていくことが大切です。

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