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矯正歯科治療の重要性とは ――健康や発育に影響する歯並び

広島大学病院 口腔健康発育歯科・矯正歯科 歯学部副学部長谷本 幸太郎 教授

谷本 幸太郎 教授

たにもと・こうたろう。
1967年広島県生まれ。
1992年広島大学歯学部歯学科卒業。
1999年同大学助手。
2007年同大学病院講師。
2013年同大学大学院医歯薬保健学研究科歯科矯正学教授。
日本矯正歯科学会(指導医・認定医)。
中・四国矯正歯科学会(副会長)。
日本顎関節学会(指導医・専門医)。
日本再生医療学会(認定医)。
日本口蓋裂学会。
日本顎変形症学会。
The Edward H. Angle Society of Orthodontics。

歯並びや噛み合わせの異常(不正咬合)を治療する矯正歯科は、正しく機能的な噛み合わせとバランスのとれた口元を作り出すだけでなく、歯周病・むし歯・咀嚼障害などの予防にもつながる重要な歯科です。ここでは、矯正歯科治療とはどんなものか、矯正歯科の役割と治療内容、かかりつけ矯正歯科医院のかかり方などについて、広島大学病院矯正歯科の谷本幸太郎教授に伺いました。

具体的な治療内容や、治療対象となる不正咬合について教えてください

矯正歯科治療とは、歯や顎の骨に人工的に一定の力をかけてゆっくりと動かし、噛み合わせの悪い歯並びを整える治療です。矯正治療の対象となる不正咬合は、八重歯・乱ぐい(叢生、下写真A)、出っ歯(上顎前突、同B)、受け口(反対咬合・下顎前突、同C)、前歯が深く噛みこむ過蓋咬合(同D)、前歯が噛み合わない開咬(同E)、歯並びに隙間を認める空隙歯列(同F)があります。またそのほかに、手術が必要となる顎変形症もあります。

治療に関しては、子どもと大人を分けて考える必要があります。まずは、ご自身やお子さんの問題となる症状を把握し、それぞれに合った治療法を見つけることが大切です。そして、少しでも歯並びに不安があれば、まずはかかりつけ歯科医に気軽に相談し、矯正歯科の専門医を紹介してもらって、適切な開始時期をアドバイスしてもらうことをお勧めします。

子どもと大人の矯正治療の違いは?

子どもの矯正治療のメリットは、歯並びを良くすることで歯や顎骨の成長・発育を助けることです。

不正咬合は、咀嚼や発音に悪影響を与えるため、成長期の子どもに対する矯正治療の意義は大きいと考えます。一般的には、永久歯が生え始める小学校入学ごろから矯正治療を始めますが、必ずしも早く始めれば良いとは言い切れず、時期を待った方が良いこともあり、見た目だけでは判断できません。小学校高学年までの6年間くらいは、永久歯と乳歯が混ざり合っている混合歯列期で、顎骨も大きく成長して顔貌(顔の形や容姿)が作られる時期ですので、この時期の治療は、同じ矯正治療でも大人とは異なります。顎骨の成長はその後も続き、永久歯列期が完成するのはおおむね中学生ぐらいです。

子どもの場合は、歯の生え変わりと骨の成長が残っているかの成長パターンに沿った治療を行います。歯並びや上顎の成長に影響する、指しゃぶりなどの悪い癖を止めることも矯正治療に入ります。それらの治療が終わった後で、歯並びを整えたり、噛み合わせを良くする大人の治療になります。また、きれいな歯並びに見えても不正咬合のこともあり、発見されるきっかけとして多いのは学校検診で指摘される場合です。子どもの不正咬合を放置すると、物が食べにくかったり、発音しづらい音が出てきたりすることがあります。これは大人になっても矯正可能ですが、こうした習慣はまだ子どものうちの、身に付けやすい時期に治しておいた方が良いです。矯正治療をすることで、正しい咀嚼や発音を身に付けやすくなり、顎の適切な成長を促します。また、プラーク(歯垢)コントロールがしやすくなりますので、むし歯や歯周病のリスクを軽減できます。

一方、大人の場合(永久歯列期)は審美が目的の場合も多いですが、矯正治療でむし歯や歯周病のリスクを軽減できることは変わりません。歯並びと全身の健康との因果関係についての研究報告はまだ少ないですが、矯正治療をすることで歯周病やむし歯のリスクが減れば、それらと関わりがあるとされる、さまざまな病気(糖尿病・心臓病・脳卒中など)のリスクの軽減につながります。また、見た目が美しくなり、自分の歯でよく噛んで食べられるという意味でQOL(生活の質)が向上します。矯正治療は、健康にプラスになることはあってもマイナスになることはありません。大人は子どもと異なり、歯の生え変わりや顎の成長を待つ必要がないため、比較的速いペースで治療を進められますが、子どもよりも歯の動きが遅いことが多いため、治療期間は長くなる傾向があります。

必要な方には、矯正治療に先立って歯周病治療を行い、歯ぐきの状態が落ち着いてから矯正治療を開始して、歯ぐきに無理な力がかからないようにゆっくり治療を行います。そして、子どもも大人も矯正治療後には、定期的なメンテナンスが重要です。

矯正歯科治療に必要な基本検査とは?

矯正治療は、しっかりとした検査や正しい診断と治療計画の基に行う必要があります。矯正治療に必要な基本検査としては、レントゲン撮影、歯型の採取、顔と口の中の写真撮影などを行います。また、必要に応じて顎関節のMRI検査やCT撮影を行います。広島大学病院矯正歯科では、特に顎関節の機能に注目し、顎関節症と不正咬合を併発している方の矯正治療に関して力を入れており、専門性の高い治療を行っています。不正咬合の治療をする方の2~3割に、顎関節の異常が見られます。重症の方は、顎関節の炎症や異常を治療して、落ち着かせてから矯正治療をしないと悪化させることがあります。当科では、顎関節症の疑いのある方は必ずチェックして、その結果に応じて慎重に治療を進めています。

矯正装置について教えてください

矯正装置には、口の中に装着する装置と外(頭や顎)に付ける装置、取り外しできる装置とできない装置、夜間のみ使う装置と一日中使う装置など多くの種類があり、日々改良されて次々に良いものが登場し、患者さんの負担も減っています(下写真/マルチブラケット装置(左)、上顎の骨の成長を促進させる前方牽引装置(右上)、上顎の骨の成長を抑えるヘッドギア(右下))。

最もよく使用されているのは、永久歯を対象にブラケットを歯の表面に装着し、ワイヤーを通して連結するマルチブラケット装置です。どの装置を使うかは不正咬合の種類や程度によるので、専門医と相談の上で選択してください。

矯正装置を装着して治療を開始したら、歯や顎の変化に応じて調節する必要があるため、定期的に(月1回程度)来院いただくことになります。矯正装置を装着すると、むし歯になるリスクが高くなります。当科では、唾液の量や性質、唾液中の細菌数を評価するむし歯リスク検査を行い、科学的なデータに基づいたむし歯予防を実践しています。さらに、歯科衛生士が正しい歯の磨き方や口の中を清潔に保つ方法やコツを、丁寧に指導しています。動かした歯は元の位置へ戻ろうとする傾向があるため、矯正装置を外した後も、しっかりと歯を安定させるために歯の裏側にワイヤーを付けたり、取り外し式の装置を使っていただく必要があります。この期間は、経過観察のために、年に数回程度の来院が必要です。

治療費は健康保険や医療費控除の対象になりますか?

一般的な矯正治療は健康保険が適用されず、自費診療になります。当科の場合、マルチブラケット装置による矯正治療は80~100万円です。顎骨の変形に起因した咬合異常に対する外科手術(顎を切る手術)を伴う矯正治療、口唇裂や口蓋裂ならびに、国が定める50を超える先天性疾患の方の矯正治療については、一定の施設基準を満たした専門医療機関において保険適用となっています。広島大学病院では、唇顎口蓋裂総合成育医療センターが設置されており、先天性疾患について矯正治療も含めて総合的に治療を受けることができます。子どもの矯正治療費は、通院費用まで含めて医療費控除の対象として認められています。大人の場合も、見た目をきれいにする美容目的でないことが証明できれば、医療費控除の対象になります。

納得できるかかりつけ矯正歯科医の選び方を教えてください

基本的には、日頃から診てもらっているかかりつけ歯科医師にまず相談し、矯正歯科の専門医を紹介してもらってください。その際、不正咬合の状態や治療目標と治療計画、治療方法のメリット・デメリット、治療期間、費用などを詳しく説明してくれる矯正歯科医を選びましょう。国内にはさまざまな矯正歯科関係の学会がありますが、矯正に関わる歯科医のほとんどが加入しているのが「日本矯正歯科学会」です。この学会の認定医・専門医は、矯正歯科医を選ぶ際の選択の基準になると思います。歯並びや不正咬合などで何か気になることがあれば、ぜひ相談していただきたいと思います。

※日本矯正歯科学会の認定医・専門医は、日本矯正歯科学会のホームページ(http://www.jos.gr.jp/)から検索できるようになっています。

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