医者選び広島 クリニックサーチ

本当に知りたい! インプラントの話 ――インプラント治療を安心して受けるために

呉医療センター・中国がんセンター 歯科・口腔外科武知 正晃 科長

武知 正晃 准教授

たけち・まさあき。
1994年徳島大学歯学部歯学科卒業。
1998年同大学助手。
2002年トロント大学在外研究員。
2006年広島大学大学院顎口腔頚部医科学講座講師。
2007年同准教授。
2017年歯学講座口腔外科学准教授。
2022年呉医療センター・中国がんセンター 歯科・口腔外科科長。
歯学博士。
日本口腔インプラント学会専門医・指導医。
日本顎顔面インプラント学会指導医。
日本口腔外科学会代議員・専門医・指導医。
日本口腔科学会評議員・認定医・指導医。
日本がん治療認定医機構がん治療認定医・暫定教育医。

歯を失ったときの治療として、入れ歯やブリッジに次ぐ、第3の治療法として注目されているインプラント。現在では、多くの人がインプラント治療を普通に受ける時代になってきています。しかし、「痛みが取れない」「高いお金を出したのに治療が失敗した」などのトラブルも増加。全ての患者が成功する治療では決してなく、また、歯科医なら誰でもできるというわけにいかないのがインプラント治療の難しさです。ここでは、インプラント治療の具体的な内容や注意点などを、呉医療センター・中国がんセンター 歯科・口腔外科の武知正晃科長にお伺いしました。

インプラントとは?

インプラントとは、「人工の材料や部品を体に入れること」の総称です。歯科では、歯がなくなった歯根に当たる部分(顎骨)に、体になじみやすい材料で作られた人工歯根を埋め込み、その上に人工の歯を被せる治療法をインプラント治療といいます。顎骨にしっかり固定するインプラント治療でなら、入れ歯よりも満足度が高く、自分の歯を取り戻した感覚で日常生活を送れるようになります。インプラント治療の歴史は古く、トルコの古墳で紀元前6世紀の世界最古の石製インプラントが発見されています。現在のインプラントは、1952年にスウェーデンのブローネマルク博士が、チタンと骨が一体化すること(オッセオインテグレーション)を発見したことから始まりました。インプラント治療は、チタンの特性を生かした治療で、日本では1983年に開始されています。

インプラントの構造は、基本的に3つのパーツからできています。顎骨の中に埋め込まれるインプラント体(歯根部)、その上に取り付けられるアバットメント(支台部)、歯に相当する上部構造(人工歯)です(下図)。

材料は主に、純チタンやチタン合金が使用され、インプラント体のデザインはスクリュー(ネジ)型、シリンダー(円柱)型などがあります。現在、国内では20種類以上のインプラントが流通していますが、インプラント体を埋め込んだときに骨により固定されやすく、噛む力を周囲の骨に分散することができるスクリュー型が主流です。

上部構造の種類は、固定性の冠やブリッジと可撤式(自分で取り外しができる)のデンチャーがあります。前者は、1本ずつインプラント体を埋め込み、上部構造は冠・ブリッジで、しっかり固定されるため自分の歯を取り戻した感覚が得られます(下写真上)。可撤式のデンチャーは、見た目はいわゆる入れ歯で、埋め込むインプラント体は上顎が最低4本、下顎は2本でも可能です(下写真下)。インプラントで支えるため、粘膜だけで支える通常の入れ歯よりも支持性が上がり、よく噛めるようになるのが最大の利点です。費用も安く済み、また、取り外しができるため日常のケアも容易で、今後、要介護者や認知症患者の増加を考慮すると、こちらの可撤式のデンチャーを選択する症例が増えてくると思われます。

インプラントのメリット・デメリットとは?

インプラントのメリットは、「見た目が良い(審美性)」「よく噛める(機能性が良い)」「他の歯を傷つけない」「しゃべりやすい」「入れ歯が動かない」などです。

一方でデメリットは、「適用が限られており、誰でもできる治療ではない」「成功率が100%ではない」「治療に手術が必要で(体に負担が加わる)、術後の痛みや腫れ、出血、知覚麻痺などが起こる可能性がある」「自費診療のため、治療費が高額になる」「治療期間が長い」などがあげられます。治療が失敗する可能性も少なからずあり、上部構造装着後5年の成功率は当科では約99%です。治療の成功を妨げるリスク要因として大きいのは、喫煙、糖尿病、歯ぎしりなどです。さらに下顎のインプラント手術後に知覚麻痺が生じることがありますが、長期間残ったり、まれに麻痺が取れないこともあります。このような問題が生じた場合、対処が難しく、治療に時間がかかるというデメリットもあります。トラブルをできるだけ避けるためにも、施術に関わる歯科医の技量が問われます。

しかし、残っている他の歯への負担がなく、自分の歯に近い機能が回復でき、見た目がきれいというメリットは決して小さくはなく、快適性や審美性を求める風潮が強まる中で、多くの方の要望に応えられる治療といえます。

治療の流れと必要な検査について教えてください

治療を行う担当医は、治療前に患者さんの状態、必要な検査、治療法、治療部位、予後、リスク、費用、治療期間などを分かりやすく詳しい説明を行い、患者さんの理解の確認や同意が必要です。患者さんの体質や健康状態によっては、インプラント治療を受けられない場合があり、治療前にはさまざまな検査が必要になります(下図)。

まず最初に、問診や口腔内の検査をして、顎や口、歯の状態を把握します。また、過去にかかった歯科以外の体の病気、現在治療中の病気、飲んでいる薬などについても聞きます。さらに、金属アレルギー検査やレントゲン検査、CT検査、咬合力検査、唾液検査などと併せて、手術前検査(血液検査などの全身的な検査)を行います。このステップでおろそかにできないのが、CT検査と金属アレルギー検査です。CT検査は、骨の形態や量、質など、顎骨の状態や解剖学的な神経の位置などを正確に把握するためには不可欠で、当科では患者さん全員に対してCT撮影を行っています。また、最近では金属アレルギーの患者さんが増えていますが、特にチタンアレルギーには注意が必要です。チタンが骨にくっ付かない、顔や口の中の歯ぐきや粘膜が赤くなるなどのアレルギー反応が現れたら、インプラントを取り除く必要があります。そうしたトラブルを避けるために、事前の金属アレルギー検査は有用です。

各種検査の結果、必要があれば前処置を行います。例えば、歯周病はインプラントの予後に影響しますし、インプラントにも歯周病に似た病気のインプラント周囲炎があります。初期のインプラント周囲粘膜炎の段階であれば治りますが、インプラント周囲炎にかかったら残念ながら治すことは困難で、インプラントの喪失につながります。歯周病の治療をせずにインプラント治療を行うと、インプラント周囲炎を起こしやすくなるため、治療前に歯周病の治療が必要となることがあります。また、CT検査でインプラント体を埋め込むのに必要な骨の高さや幅が足りないと診断されれば、前もって補う処置(骨造成)が必要になる可能性があります。

担当医は精密な治療計画を立て、治療計画を提示して説明し、相談に応じてインフォームドコンセント(同意)を得る場合には、患者さんの家族が立ち会うことが望ましく、その際に必ず治療説明同意書を作成します。

どんな手術ですか?

術式は大きく2つに分けられ、手術を1回だけ行う1回法と、手術を2回に分けて行う2回法があります。標準的な治療方法は2回法です(下図)。 各種検査と前処置が終わり、治療計画の立案や説明、修正が終わったら、治療計画に基づいてインプラント一次手術を行い、インプラント体を骨の中に埋め込みます。埋め込み後、下顎は2~4か月、上顎は3~5か月(軟らかい骨でできているため)待ちます。

インプラント体が骨と一体化したら、二次手術(アバットメント連結術)で上のアバットメント(支台部)を取り付けます。その後、歯ぐきが落ち着くのを待って、まず仮歯を作り、上部構造(冠や入れ歯)ができるまでの期間を使用して、噛み合わせや見た目、メンテナンスの状態などをチェックします。そして、仮歯を参考にして最終的な上部構造を製作し、アバットメントにそれを取り付けたら治療完了ですが、仮歯の作成後数か月かかる場合があります(下図)。

インプラントにも寿命がありますか?

インプラントにも寿命があります。冠や入れ歯を装着したら、それで終わりではありません。インプラントを長く持たせるためには、日常の正しい手入れと観察が大切です。長期で見た場合、インプラント周囲の炎症、上部構造材料の破損、ネジの緩みや破損、インプラント体の破折などのトラブルが起こる場合があります。インプラントの喪失にもつながりかねないトラブルを予防するために不可欠なのが、定期的なメンテナンスです。治療終了後、最初は1~3か月以内に来院し、その後も定期的に(半年に1回程度)必ずメンテナンスを受けてもらい、インプラント周囲の骨や歯ぐき、冠の状態、さらに、噛み合わせやブラッシングの状態などをチェックしていきます。

インプラントがしみる、少し変な感じがする、少し痛い、グラグラするなどと感じたら、すぐに歯科医院を受診してください。担当医を受診するのがベストですが、それができない場合、トラブル時に歯科医が知りたいのは、インプラントのメーカーと種類、サイズ、使用した部品の種類、合着方法(ネジ止めかセメント装着か)などの情報です。当院では、それらのデータを記載したインプラント治療カードを患者さんにお渡ししています。学会でも治療カードやインプラント手帳の発行を勧めており、それがあれば、インプラント術後の安全な健康管理に役立ちます。もし、カードや手帳がもらえない場合は、インプラント治療を終了した際に担当医に情報を書いてもらっておけば、トラブル時に他の歯科医を受診しても対応が速く、スムーズな治療が可能になります。

治療費は、健康保険や医療費控除の対象になりますか?

インプラントの治療費は健康保険が適用されず、全て自費診療となり、医療費控除の対象にもなりません。検査費用もメンテナンス料金も、自己負担です。歯科医院が独自に価格を設定していますが、相場は1本約40~50万円で、ほかに検査費用などがかかります。メンテナンス料金は、当院の場合、埋め込んだインプラントの本数によって設定しています。なお、2012年4月から、がんや外傷などによって顎骨が広範囲になくなってしまった場合や、先天的に歯がない患者さんに限り、インプラント治療が保険適用されるようになりました。

信頼できるインプラント治療の歯科医の選び方を教えてください

インプラント治療には、高度な技術と専門的な知識、設備が必要です。確かな知識や技術を持っているか(専門医、指導医)、カウンセリングや検査が充実しているか、院内の衛生管理や設備がしっかりしているかなど、治療に入る前によく調べた上で慎重に歯科医を選ぶことが、失敗しないインプラント治療への第一歩です。きちんと分かりやすく説明してくれたり、質問をよく聞いてくれたり、患者の気持ちが分かる、特に、CT検査など必要な検査をしっかりとしてくれて、優れた技術や知識を持つ先生を選びましょう。患者さん自身も、インプラント治療について少し勉強することも大切です。

インプラント治療に関わる歯科医が加入している主な学会は、日本口腔インプラント学会と日本顎顔面インプラント学会です。この両方または、どちらかの学会の専門医・指導医であれば、信頼できる歯科医の一つの目安になります。インプラント治療は、トラブルの多い治療という印象があるかもしれませんが、高度な技術や豊富な知識を持った医師が慎重に行えば、むしろ機能改善に優れ、残存率の高い優れた治療であることは確かです。質問や疑問があれば気軽に歯科医師に相談し、納得した上で治療を受けてください。

前のページに戻る
トップページに戻る
このページの上へ