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子どもの歯科の上手なかかり方

広島大学 香西 克之 名誉教授 (前 広島大学病院 小児歯科長)

香西 克之 教授

こうざい・かつゆき。
1956年生まれ。
1981年広島大学歯学部卒業。
1985年同大学院歯学研究科修了、同大学助手(小児歯科学)。
日本鋼管福山病院小児歯科、トロント大学客員研究員などを経て、2001年広島大学歯学部小児歯科学講座教授、同大学病院小児歯科長。
同大学歯学部歯学科長、歯学部長補佐を歴任後、2015年より同大学病院副病院長。
2021年定年退職、広島大学名誉教授・客員教授

乳歯と永久歯は、その特質が大きく異なります。子どもの歯は、大人の歯よりもエナメル質や象牙質が構造的・生化学的に脆弱で、むし歯(う蝕)になりやすい特徴もあります。ここでは、子どもの歯を健やかに保つためにどのような予防指導や治療を受けたらよいか、安心できる小児歯科の選び方などについて、広島大学病院小児歯科の香西克之教授に話を伺いました。

子どものむし歯予防には何が重要でしょうか?

子ども自身ではむし歯予防ができないため、保護者が関心を持つことがまず大事です。

乳歯はいつから生えて、何本あるのか。歯磨き(ブラッシングおよびフロッシング)はいつごろ開始すべきなのか。歯の発育やそのケアの方法を知っておくと、とても役立ちます。年齢とともにダイナミックに変化する歯や口腔の仕組みについてはもちろんですが、哺乳から離乳期、離乳期以降にかけての食べる機能の発達は、むし歯予防にも関係が深いことが知られています。

乳幼児期の歯科健診はどう受けたらいいでしょうか?

国が定めている乳幼児歯科健診は2回あります。

最初は1歳6か月児歯科健康診査で、乳歯の発育状態やむし歯の有無を検査してもらいましょう。その次は3歳児歯科健康診査ですが、この2回だけでは十分ではありません。生後6〜8か月頃に歯が生え始めたら、信頼できる歯科医院で定期的に3〜4か月ごとの健診を受けることをお勧めします。年齢に応じてどこがむし歯になりやすいか、どのように歯の清掃を行えばよいか、離乳食や幼児食の進め方と歯の発育との関係などについて、きちんと教えてくれる専門的な知識を持った歯科医師や歯科衛生士を選ぶことが大切です。

むし歯を作らない具体的な方法について教えてください

むし歯は、「食べ物(砂糖)」「細菌(むし歯菌、ミュータンス菌)」「歯の質」「時間(習慣)」の、四つの要因が重なってできると考えられています。そのため、①砂糖の摂取量を減らす、②むし歯菌の増殖を防ぐ、③歯の質を強くする、④おやつ(間食)に規則性をもたせる、などの方法で予防ができます。以下、具体的に説明します。

まず、砂糖はキャラメルや飴、チョコレートといった子どもの好物に多く含まれ、むし歯菌はその砂糖から粘着性の歯垢(デンタルプラーク)を生成し、歯の表面で大量に増殖します。さらに、大量のむし歯菌から代謝された酸で歯が溶かされ、むし歯の発症につながっていきます。現代の食生活では、砂糖を完全に摂取しないようにすることは不可能です。ですので、間食の時間や回数を決めて規則性をもたせることが大切です。また、飲み物についても同様です。体に良いとされるスポーツドリンクや乳酸飲料、果汁100%ジュースなども酸性飲料であり、砂糖も含むため一日中だらだら飲み続けると、むし歯の原因になることがあります。無糖、シュガーレス、ノンシュガーと記載されていても、全く砂糖を含有していないわけではありません。

清掃状態が悪くて大量の歯垢が歯の表面に付着しつづけると、その直下にむし歯ができます。これらの歯垢を除去するためには、保護者(親)による仕上げ磨きが欠かせませんが、年齢や口の状態によって磨き方や磨く場所にポイントがあります。歯の質については、適度な濃度のフッ素で強くなることが知られていますが、フッ素は自然界に存在し、魚・海藻・お茶などにも微量に含まれています。フッ素イオンが歯に取り込まれることで、酸に対する抵抗性が高くなります。フッ化物配合の歯磨きペーストの利用も勧められます。

以上を参考に、子ども各々に適したむし歯予防のスタイルを作り、実践していくことが必要です。

むし歯になったときには、どうすればよいでしょうか?

乳歯のむし歯は、永久歯に生え代わるから治さなくてもよいと思っていないでしょうか。放っておくと、穴が大きくなって歯髄(神経)に近づき、少しの刺激で痛みを生じます。同時に噛む能力が低下し、食事が取れず元気がなくなります。さらに、進行すると歯髄の中にまでむし歯菌が侵入し、歯根やその周囲に炎症が広がって歯ぐきが腫れることもあります。また、むし歯によって生え代わりのための歯列スペースが減り、永久歯列への交換がスムーズに行われないため、歯並びや噛み合わせに不正が生じやすくなります(不正咬合)。不正咬合の後天的原因は乳歯のむし歯を起因とすることが多いため、不正咬合を予防するためにもむし歯予防や早期治療が重要です。

健全な歯並びや噛み合わせのためには何をしたらよいですか?

乳歯列期や混合列期(永久歯との交換期)に不正咬合の原因を極力取り除き、健全な発育を促すことを「咬合誘導」といいます。不正咬合の原因は、むし歯、指しゃぶりや口呼吸などの習癖、耳鼻科疾患、口腔外傷、歯数異常、顎骨の発育異常、遺伝性などさまざまです。模型診査やエックス線検査による分析などで正しく診断した上で、治療方針を立案して適切な咬合誘導処置を行うことが重要です。また、治療が永久歯列期に及んで本格矯正治療が必要と診断される場合は、最初から矯正歯科を専門とする先生に紹介します。そのためにも検査と分析、正しい診断が求められ、見た目の診査だけで不正咬合の治療を始めることはありません。また、小児歯科と矯正歯科とは専門性同士で連携が強く、小児歯科の咬合誘導は、矯正歯科分野では予防矯正やⅠ期治療といわれています。

咬合誘導の治療内容は、矯正用ワイヤーや義歯のような装置を使ってスペースを確保する方法や、口唇や舌の機能トレーニングなどさまざまです。3歳以降の指しゃぶり習慣をやめたり、口呼吸を鼻呼吸に改善したりすることによって、不正咬合が改善することもあります。

口腔崩壊」が問題になっているようですね?

学校歯科健康診査データをみてもむし歯は減少していますが、ごく少数の子どもたちに依然として重度のむし歯がみられます。

全国的な調査によると、小中学生の約7割はむし歯などの口腔疾患がなく健全ですが、残りの口腔疾患を有する3割の児童は歯科受診を勧告され、そのうち約3割は歯科医への受診が実施されています。しかし、残りの7割は未受診です。さらに、全体の0.3%の児童はむし歯が10本以上もある、いわゆる口腔崩壊状態といわれています。広島地域でも同様の結果が出ており、小児の口腔領域において健康格差(むし歯格差)が広がっています。格差の背景には成育環境が大いに関係しており、ネグレクト(養育放棄や子育てへの無関心)をはじめとする児童虐待、子どもの貧困、母子家庭など現代の子どもを取り巻く環境が、歯科疾患として表出されていると考えられます。この問題は自己責任で語れるものではなく、抜本的な対策が必要です。

安心できる小児歯科医の選び方を教えてください

できる限り、小児歯科専門医を選ぶことをお勧めしますが、現在は小児歯科専門医、小児歯科医の絶対数が少ないのが現状です。ポイントとして、治療に対する選択肢を幅広く持ち、保護者や子ども本人に対して説明をしっかりしてくれる歯科医を選ぶことです。また最近は、むし歯予防はしてもむし歯治療は行わない(できない?)歯科もあり憂慮しています。エックス線診査で永久歯の発育や異常を診断したり、治療の際には局所麻酔、ラバーダムを適正に使用できるか、切削器具や既製乳歯冠など小児専用の器具や歯科材料を備え、小児歯科学に裏付けられた専門技術を身につけていることが求められます。

歯科医療機関は、「一般歯科」「小児歯科」「矯正歯科」「歯科口腔外科」の四診療科を自由に標榜することが可能であるため、複数の診療科を併記標榜する傾向があります。その結果、現在では小児歯科を標榜している歯科医療機関は約4万施設(全歯科医療機関6万8000施設の約60%)以上に上り、少子化や小児のむし歯減少とは逆に増加し続けているため、小児歯科を選ぶ際は一部の情報のみに頼らず、慎重に選ぶことが必要です。小児歯科を単独で標榜しているところは安心と思われます。それに対して、小児歯科医療の見識や技術を高め、優れた小児歯科医を養成し、小児歯科専門医の審査を行う学術団体である日本小児歯科学会の会員は全国で約4,800人(歯科医師数10万人の4.8%)です。そのうち、小児歯科専門医はわずか1,178人ですが(約1.2%)、日本小児歯科学会ホームページから検索できます。(2021年現在、広島県内41人)。

さらに、子どもの治療計画は発育期であることを考慮し、長期的視野に立脚したものであることも大切です。子どもの専門的な歯科医療が、どこでも安心して受けられるような体制をつくることが求められます。

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