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睡眠時無呼吸症候群の歯科的アプローチ

松本歯科医院松本 浩一 院長

松本 浩一 院長

1963年広島市生まれ。
1987年広島大学歯学部卒業。
広島大学歯科補綴学第二講座、倉敷第一病院、甲奴町歯科診療所を経て、1993年松本歯科医院開院。
2007年現在地移転。
日本睡眠学会。
日本睡眠歯科学会。
日本睡眠歯科学会評議員。

睡眠中に繰り返し呼吸が止まる「睡眠時無呼吸症候群(SAS)」。現在、この症状を持つ患者は国内で400 ~ 500 万人といわれています。大きないびきが特徴で、いびきが止まっている間は呼吸も止まるため熟睡できず、昼間に眠気が生じて記憶力や集中力が低下。臓器や脳に十分な酸素が届かなくなるため、高血圧、糖尿病、脳卒中、虚血性心疾患などの生活習慣病のリスクが高まるとの報告もあります。ここでは、歯科領域からのアプローチで睡眠時無呼吸症候群の治療に長年取り組んでいる、松本歯科医院の松本浩一院長に話を伺いました。

睡眠時無呼吸症候群について教えてください

睡眠中に10秒以上続く無呼吸を繰り返し(1時間に5回以上)、そのため日中に眠気が出たりするなど、さまざまな症状が出てくる疾患が「睡眠時無呼吸症候群」です。1時間に5~15回が軽症、15~30回が中症、30回以上が重症と定義されていますが、重症の患者さんになると1時間に60回程度の無呼吸が起こることも。長期間治療を受けず放置すれば、居眠り運転による事故など、重大な結果を招くこともあります。症状としては、「大きないびき」「日中の眠気」「睡眠中の多動」「夜間の多尿」「夜尿症」「早期の頭痛」「性格の変改」「精神症状(行動異常)」「不眠」「夜間の窒息感」などがあげられます(下図)。

睡眠時無呼吸症候群の原因は?

まず、肥満傾向にある方は首の周りに余分な脂肪が付いているため、気道が塞がりやすくなり、患者さん全体の約3割を占めます。そして日本人に多いのですが、生まれつき顎が小さい方も、気道がもともと狭いためリスクが高まります。扁桃腺が腫れている方や、鼻ポリープや鼻中隔湾曲症、慢性副鼻腔炎といった鼻疾患が原因になることもあります。口を大きく開けて舌を長く伸ばす方法で状態が推測できます(下図)。口蓋垂が隠れていたり(クラスⅡ)、軟口蓋しか見えなかったりして(クラスⅢ)数値が高くなると、睡眠時無呼吸症候群のリスクが高くなります。家族やベッドパートナーがいる場合は、いびきや無呼吸を指摘されて来院することが多いのですが、一人で寝ている方は気付かずに症状を悪化させている例も少なくありません。昼間の強い眠気や頭痛などがある場合は、一度専門の医療機関を受診しましょう。

睡眠時無呼吸症候群の治療方法を教えてください

症状の重症度や原因により変わりますが、代表的なものとして三つあげられます。

まず一つ目は、睡眠中にCPAPを装着します(持続陽圧呼吸療法)。無呼吸になってセンサーに指令が入ると、プレッシャーをかけて喉を広げ、気道へ空気を送り込みます。副作用もなく効果も高いのですが、口を開けて寝てしまうと、鼻から空気を入れるのに口から抜けてしまうこともあります。1時間に20回以上無呼吸の症状が起こる方は保険が適用されます(下写真左)。二つ目は、睡眠中に、口の中にマウスピース(口腔内装置)を装着するものです(下写真右)。比較的軽症でCPAPが適用されない方、重症だけれどもCPAPと併用して効果を高めたい方、CPAPを使用してみたけれどもあわない方などが治療に来られます。小型ですので、旅行や出張に手軽に持ち運べるというメリットもありますが、歯の本数が極端に少なかったり、重度の歯周病や顎関節症など、口腔の状態によっては使用できない場合もあります。

三つ目として、原因がアデノイドや扁桃肥大であると明らかな場合や、他の方法がうまくいかない場合は、手術という選択肢もあります。

肥満の方は、減量を行うことで症状が軽くなる可能性があります。適度な運動を行い、寝酒や深酒を止めるなど生活習慣を見直しましょう。また、睡眠時の体位も重要で、上向きに寝てしまうと舌根部が下がり上気道がふさがれるので、抱き枕を試すなど、横向きに寝れるよう指導しています。

マウスピースに関する最新治療はどのようなものですか?

マウスピースでの治療は、下顎を少し前に出した状態で固定するものです。気道が広がるためスムーズに空気が通るようになり、症状が改善されます。一般的な上下一体型は、顎の動きを抑制するため、慣れるまでは違和感があるかもしれませんが、現在は柔らかい素材で装着感が改善されたものや、微調整が可能な装置も出ています。また、使用しているかどうか状況管理ができるものもあります。装着後は、1~2週間おきに診察を行います。「装着使用状況」「いびきの変化」「起床時の咬合変化」「咀嚼障害の有無」などを確認して、マウスピースの調整を行います。違和感がひどい場合は、一回の使用時間を短縮したり、一日おきの装着からスタートします。

●マウスピースの効果が高い例/下顎後退、やせ型、首回りが細い、年齢が若い、女性、低呼吸が多い

●マウスピースの効果が低い例/肥満、呼気時にもいびきがある、鼻閉

子どもの睡眠時無呼吸について教えてください

大人と比べて昼間の眠気を訴えることが少ないため、発見が遅れて見過ごされてしまう場合が多くあります。子どもの約10%はいびきをかいています。穏やかないびきであれば、それほど気にする必要はありませんが、激しいいびきだったり、眠っている間の呼吸が苦しそうな場合は注意が必要です。睡眠の質が悪くなり、日中の眠気や疲労感が出現してきます。時には、落ち着きがなくなることもあります。また、睡眠中に胸腔内の陰圧が強くなり、心臓に負担を与えたり、肋骨や胸骨の変形をきたしたりします。さらに、成長ホルモンの分泌低下を起こすともいわれています。子どもの睡眠時無呼吸の原因の多くは、アデノイドや扁桃腺の肥大によるもので、手術という選択肢も考えられます。

かかりつけ歯科医の役割は

睡眠中の無呼吸は、自分自身ではなかなか気が付かないため、検査や治療を受けていない方もまだ多くいると思われます。多くの歯科医院では患者を水平に寝かせ、開口してもらい治療を行います。その際に息苦しいと訴えられる方は無呼吸症の可能性があります。その他、舌の大きさや噛み合わせを見ることで、かかりつけ歯科医は睡眠時無呼吸かどうかを見極める重要な役割を担っていると思います。当院では、医科と連携を取り、早期発見に努めています。お困りの方や気になっている方などは、一度最寄りのかかりつけ医に相談してみてください。紹介を受けた場合には、丁寧に対応いたします。

※口腔内装置を使った治療を行う際には、必ず医科の睡眠検査(簡易検査か精密検査〈PSG検査〉)と診断が必要になります。

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