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歯科と医科の連携による口腔ケアは、全身疾患の予防に効果的

広島大学病院 口腔総合診療科 連携口腔ケアサポートチーム副代表西 裕美 診療講師

西 裕美 診療講師

にし・ひろみ。 2000年広島大学歯学部歯学科卒業。
2004年同大学院歯学研究科歯学臨床系(口腔外科学第二)専攻修了、同大学歯学部産学官連携研究員(口腔細菌学)。
2007年同大学病院助教(口腔顎顔面再建外科)。
2009年ボストンフォーサイス研究所(免疫学)。
2012年同大学病院診療講師(口腔総合診療科)、同大学病院連携口腔ケアサポートチーム副代表併任。

医科の治療中に起こる合併症には、口の中の細菌が原因のものが少なくありません。感染源となる歯の治療や口腔管理を行うと、口の中の細菌数が徐々に減少するため、口腔ケアで術後の傷口の感染や肺炎が減り、平均的な入院日数も短くなります。ここでは、歯科と医科の連携の重要性について、広島大学病院連携口腔ケアサポートチーム副代表でもある同大学病院口腔総合診療科の西裕美診療講師に話を伺いました。

口の中は、体の中で最も細菌数が多いとは本当ですか?

口の中の歯垢には、便と同量の細菌が含まれています。これらの細菌の中には、全身疾患の治療中に起こる感染や、誤嚥性肺炎の原因となる細菌もたくさん含まれています。現在、程度の差はありますが、成人の約8割が歯周病を発症し、歯周病菌を口の中に持っているとされています。歯周病菌をはじめとする口の細菌は、治療の際の合併症発症にも大きく関係します。体が元気なときはそれほど問題ではありませんが、体力が落ちたときには菌の力が強くなってしまうので、しっかり管理することが大切です。

病院ではどのような歯の検査を行っていますか?

むし歯や歯周病の検査、レントゲン検査により、感染の原因となる菌の有無を調べるほか、口腔内の細菌数を測り、数をコントロールすることに役立てています。また、病気の治療中はストレスや薬剤により唾液量が減ってしまい、細菌数が増加する可能性があるため、口の渇き度合も検査します。このような検査の結果は、数値で表して、感染の具体的な危険性を医療従事者で共有しています。さらに、必要があれば噛み合わせや入れ歯の検査も行い、治療中の体力を維持する食事の量が低下しないように管理しています。

むし歯や歯周病の治療など、感染源を取り除く歯科処置と併せて、口の細菌数を少なく維持できるよう、超音波による歯石除去や歯ブラシ指導を継続し、細菌の定着を抑えるため機械による歯面研磨を行います。普通の歯ブラシだけでは、合併症に関係する不要な細菌を十分に落とすことはできません。必要に応じて、口の細菌の増加を抑える薬、乾燥を抑える薬を処方し、口の不具合が原因で治療の足を引っ張らないよう、担当医師と相談をしながら管理を行っています。

病院ではどのような歯の検査を行っていますか?

当科では、がん患者さんや全身麻酔の手術を受ける方、脳卒中などで緊急入院された方など、全身状態が不安定な方に対して治療を行っています。全身治療の内容や期間によって患者さんの抵抗力に差が出るため、歯科治療の内容も担当医師と相談しながら検討し、治療しています。全身麻酔の手術を行う方は、手術時の麻酔装置が口を通過し、上顎の前歯に負担がかかることがあります。そのため、動揺している歯や破折しやすい被せがある方に対しては、応急的に歯を固定したり、マウスピースを作ったりします。歯周病によって膿や痛みがある場合には、感染源となりやすいため抗生剤を使います。また、全身治療が長期に及ぶ方や口の細菌が合併症に関係しやすい治療を行う方には、感染源となる悪い歯を抜いたり、神経を取ったりします。心臓血管外科の手術の場合には、膿などがなくなるまで手術を延期することもあります。

当院では、以上のような全身状態が不安定な方、血液をサラサラにする薬や抜歯に問題となる骨祖しょう症薬を使用している方など、地域の歯科医院では対応が難しい方にも対応しています。具体的には、全身状態が不安定な時期だけ治療したり、難しい処置だけ行ったりした後、かかりつけ歯科で継続してケアしてもらうようにしています。

骨病変(骨粗しょう症やがんなどによる)治療薬を使用する患者さんには、特に注意が必要だそうですね?

骨病変治療薬は非常に有効な治療薬ですが、使用すると確率は低いものの、顎骨壊死が発生することが報告されています。顎骨が壊死すると、歯肉の腫れ、痛み、膿が出る、歯がぐらぐらして抜け落ちる、顎骨が露出するなどの症状が出ます。歯科治療の内容によっては休薬が必要な場合もあります。また、口腔内の不衛生が顎骨壊死に関係しているとされているため、使用している方は歯科医院での定期的なメンテナンスが必要です。

口の中の細菌管理が重要と聞きました

抗がん剤などの薬が原因でできる口内炎もありますが、口の中の細菌が多いと、口内炎はさらに広がってしまい、痛みも強くなります。これを二次性口内炎といいます。口内炎で食事がしにくくなると、栄養状態が悪化するだけでなく、治療効果が下がってしまいます。予防するために、口の中の細菌を減らすことが重要です。化学療法による口内炎は、歯科の介入によって減少するという調査結果も出ています。歯科受診を全くしていない方は、76%に口内疼痛がありましたが、定期的に歯科受診している方は、20%がわずかな疼痛を認めただけという結果が出ました(当科外来調査)。

口腔ケアによる他科疾患の治療実績は、どんなものがありますか?

入院中に肺炎になる原因となる菌は、8割は口腔内にありますが、歯科の介入によって口の中の菌数は減少します。例えば、介入直後から7日ごとに細菌数を調べた実験では、細菌数が時間の経過とともに急激に減少し、21日後には正常値の細菌数より少ない数で維持するようになりました。これは、感染源となるう蝕や歯周病の治療を行い、口腔ケアを継続したことによります。肺炎予防には、歯科受診して感染源を治療し、口腔ケアを継続することが重要です。肺がんの手術後に肺炎を発症した率は、歯科が介入していない場合に13%だったものが、歯科介入によって4.6%まで減少したという報告があります(下図)。

このほかに歯科が介入することで、治療による入院日数が胃がんでは34日→23日に、大腸がんでは31日→21日に、前立腺がんで23日→18日まで減少したとの報告もあります。食道がんでも手術後の立位までの日数、入院日数とも減少しており、治療成績の向上がみられました(下図)。

広島大学病院での歯科・医科連携について教えてください。

当院では2012年12月に、歯科以外の職種である医師や看護師、薬剤師、言語療法士など、多職種で構成する連携口腔ケアサポートチームを結成し、口腔管理を通して疾患治療中の感染を予防する取り組みを始めました。全身疾患の治療内容や、治療によって大きく変化する患者さんの体の抵抗力に応じて、口腔管理する取り組みを行っています。口腔管理では、前述のように一般的な口の検査に加えて、口の中の細菌数を測定し、感染の危険性を数値化しています。これにより、患者さん自身だけでなく、歯科以外の医療従事者も口の状態を把握することが可能です。さらに、医科とのカンファレンスで詳細な情報を共有します。また、講習会を通じて、歯科スタッフが全身疾患の治療について学ぶとともに、歯科以外の職種の方にも口の管理を支援してもらえるように、口腔ケアの研修会を開催しています。

広島大学病院の歯科・医科連携が充実している理由とは?

歯学部のある国立大学病院の中では、当院が最も多くの患者さんに対し、歯科と医科が連携して合併症予防に取り組んでいる実績があります。免疫力低下が起こりやすい治療中には、感染に結びつかないように医師と連携して、適切な時期に適切な治療を行います。その後、治療が一段落した際には、かかりつけ歯科でケアを継続してもらうなど、患者さんの状態や希望に応じた管理を行っています。担当の医師や看護師に、口腔管理を希望することを伝えてもらい、少しでも早い時期から口の感染の危険性を数値として評価をして、効率的な管理を行うことを勧めています。

今後の課題について教えてください。

患者さんが入院中や頻繁に通院しているとき(急性期)には、歯科として介入が可能ですが、急性期を経ると次第に介入が難しくなります。その意味では、地域の歯科医院との連携が重要になります。近年、かかりつけ歯科を対象にした講習会などが実施されており、開業医の認識は高まっていますが、患者さんが通院してくれないことには治療ができません。当院でも、かかりつけ医での診療を勧める手紙を患者さんに送っていますが、まだ万全とはいえません。口の中の細菌は、治療中の合併症だけでなく、糖尿病や脳卒中、動脈硬化、心筋梗塞、心内膜炎、肺炎、リウマチ、早産など、多くの病気に関係していることが分かっています。痛い、腫れる、歯が動くなどの自覚症状がなくても、通院して口の管理を継続することが何より大切です。

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