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歯医者さんの上手なかかり方

広島大学病院 口腔総合診療科河口 浩之 教授

河口 浩之 教授

かわぐち・ひろゆき。
1961年広島県生まれ。
1986年広島大学歯学部歯学科卒業、1990年同大学院歯学研究科修了。
同大学歯学部(歯科保存学第二講座)助手、同大学附属病院講師を経て、2001年同大学歯学部助教授。
2012年日本鋼管福山病院歯科部長。
2017年7月広島大学病院口腔総合診療科教授着任。
日本歯周病学会専門医。
日本歯内療法学会専門医。

現在、歯科開業医の総数はコンビニの数よりも多いといわれています。そんな中、「何を基準に歯科医を選んだらいいのか」という声をよく聞きます。歯科診療は歯科医によってさまざまで、納得のいく治療を受けるには歯医者選びが大変重要です。ここでは、良い治療を受けるために知っておくべきポイントなどについて、広島大学病院口腔総合診療科の河口浩之教授に話を伺いました。

歯医者選びのポイントについて教えてください

患者さんは、何らかの訴えがあって歯科医院に行く場合が多いと思いますが、まず、その訴えにしっかりと応じてもらえるか、患者さんの立場で考えている歯医者かどうかを判断してください。次に、適切な治療方法についてきちんと丁寧に説明してもらえるか、それで納得できるかどうかを考えてください。「この先生なら治療を任せられる」と思えるかどうかが重要です。

「削らない・抜かない」がスタンダードな治療ですか?

それがスタンダードということはありません。歯科医療の進歩で以前に比べて歯を削らず、抜かずに治療できる方法や材料が開発されています。しかし、歯を抜いたり、歯の神経を取ったりする方が良い場合ももちろんあります。歯を抜かないで残しておくと、細菌の温床になって体に良くないこともあります。その意味でも、現在の歯の状態や考えられる治療法のメリット・デメリットをきちんと説明してもらい、一緒に判断すると良いのではないでしょうか。

セカンドオピニオンについて大事なポイントを教えてください

まず、知っておいてもらいたいことは、セカンドオピニオンは医師(歯科医師)との信頼関係を壊すことではなく、患者さんの「権利」だということです。歯科治療でも同様です。歯科医師はできるだけ丁寧に説明していると思いますが、それでも患者さんは疑問や不安に思ったりすることもあります。自分の気持ちや疑問に思ったことは必ず伝えてください。治療を受けるのは患者さん自身ですので、その治療を十分理解し、納得して治療を受けることが大切です。どうしても納得できない、あるいはほかの歯科医師の意見も聞いて確認したいと思ったら、セカンドオピニオンを受けたいということをきちんと歯科医師に伝えてください。このような状況のときにこそ、その対応によって歯科医師との信頼関係がより構築できるものと思われますし、そうあってほしいと思います。

歯科医の「資格」も選択の目安になりますか?

歯科医を選択するとき、専門医や認定医の資格を持っているかどうかは一つの目安になります。歯科医院の受付などには認定書が飾ってありますが、現在は、通院する前に各歯科医院が開設しているホームページなどでチェックすることができます。資格は患者さんへの情報提供の一つになるはずですから、ほとんどの場合で掲載していると思います。絶対的なものではありませんが、「歯学博士」であるかも基準の一つになります。結論を言えば、資格は「ない」より「ある」に越したことはありません。

歯科の「専門」について教えてください

医科ほどではないですが、歯科もいくつかの専門分野があります。歯科医によっては得意な領域の治療を持っています。一人の歯科医が一人の患者さんの歯科治療を全て行うことが理想ですが、難易度の高い治療が含まれることもあります。その場合には、その領域のみについて、患者さんを専門の歯科医に紹介することもあります。大学病院では医科・歯科ともに専門領域に分かれて治療しており、口腔外科専門医の資格を持つ歯科医がいるため、親知らずの抜歯などで治療が困難になることが予想されれば、大学病院の歯科を紹介される場合があります。むし歯で歯根治療をする場合でさえ、歯の種類によっては難易度が大きく異なり、治療技術で歯の予後が変わるため歯根の治療の専門医もいます。

適切な治療環境とは?

部屋が快適で、きれいなことを呼び物にする歯科医院もあります。快適に越したことはありませんが、大切なのは診療室内の清潔さです。感染対策をきちんと行っているか、器具の消毒などは十分かなどです。見分けるのは難しいと思いますが、診療時に手袋を替えているか、器具の使い回しはないかなどは、待ち時間や治療の合間に少し注意して見ていると分かることもあります。医師や看護師など医療関係者が歯科治療に通院するときは、そこの歯科医院内の感染予防対策をひそかにチェックしているという話を聞きます。

医療機器についてはどうでしょうか?

近年では、歯科治療を効率的に行える新しい治療機器や材料が多く販売されています。歯科専用のCTもその一つです。インプラントを埋入するとき、骨の立体的な形態を把握するために導入されたため、インプラント治療を行っている歯科医院には設置されていると思います。CTは骨の状態だけでなく、歯根の形態や歯神経の管の位置の把握などにも利用できます。また、歯科用顕微鏡の登場で、歯の細かい部分まで観察できるようになりました。これらの医療機器の利用で、より精度の高い診査や診断、歯科治療が可能となりました。

医科との連携について教えてください

体調や服用薬が歯科治療に影響を及ぼすこともあるため、自分の状態については、必ず隠さず伝えてください。状態によっては、かかりつけの医院(医師)に問い合わせることもあります。超高齢社会となり、今後は、さまざまな疾患を持つ方が歯科に通院するようになるため医科との連携は必須です。現在では歯周病などの歯科治療をしっかり行い、口の中を清潔に管理することで、健康寿命が延伸されることが分かってきています。医科と歯科が連携し、検査結果を共有して治療方針を話し合うことで、患者さんにとって最良の歯科治療が可能になります。医療の進歩は著しいものがありますので、それによって歯科の対応も変わっていきます。昨日まで不可能であった治療が、明日には可能になることもあります。歯科にとって、医科との連携は欠かすことができません。

患者さんに合った歯科医とは?

いくつかの視点をあげていきます。

まず、地理的に通院しやすいことは歯科医院を選択する上で重要です。仮歯が取れた、セメントが欠けたなどの些細なことでも、無理なく通院できるメリットは大きいです。次に、患者さんの年齢も選択基準になります。子どもであれば、小児を診察している経験が豊富な小児歯科専門医、また、高齢者で入れ歯を作りたいのであれば、補てつ専門医が良いでしょう。このように、その領域を専門にしている歯科医を選択するのは一つの方法です。歯並びなら矯正歯科の専門医、歯周病なら歯周病専門医がいます。

問題となるのは、歯医者が苦手なため、できるだけやさしくて痛くない治療を望む患者さんの場合です。そのような治療は、医学的に良い治療でない場合があるからです。例えば、歯周病治療で歯肉の周りの歯石を取るときは少し痛いはずです。それなのに、痛さを防ぐために表面をなぞるだけでは意味がありません。また、歯根の治療時にラバーダム(その歯だけを被せて唾液などの汚染物ができるだけ入らないようにするもの)を使用するときは、途中でうがいなどができません。患者さんは大変かもしれませんが、きちんと治すためには必要な器具で、その重要性を理解していただきたいと思います。良い治療は、患者さんの協力があって成り立ちます。歯根の治療中に、「しんどいから途中でうがいをしましょう」などという声かけは、一見やさしいように感じられるかもしれませんが、それはすなわち、衛生的にすべき治療を途中で感染させてしまうことになるのです。

むし歯や歯周病からの細菌感染で熱が出たり、重篤な病気になったりすることが分かってきています。患者さんに合った歯科医とは、患者さんの健康をまず第一に考え、十分な信頼関係を築ける歯科医ではないでしょうか。

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