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統合失調症医療の最新動向 ──夢や希望を大切に、地域社会への移行を支援

草津病院 精神科藤田 康孝 部長

藤田 康孝 部長

ふじた・やすたか。
2003年広島大学医学部卒。
関連病院で研修後、2010年草津病院着任。
2015年より現職。
医学博士。
精神保健指定医。
精神神経学会専門医・指導医。
麻酔科標榜医。

統合失調症は、完治が難しく慢性化しやすい病気ですが、治療薬やチーム医療の進歩によって治療成績は向上しており、重症化する患者は減少傾向にあります。また、世界的な傾向として、「入院は一時的なもので、予後は地域で暮らす」ことを基本に治療を進めるようになってきており、国も就労支援を積極的に行っています。県下の統合失調症医療をリードする草津病院の藤田康孝先生に、最新の治療法や地域移行の考え方について話を伺いました。

進化したチーム医療で治療成績が向上

疾病に対して、最先端の治療技術を持って専門的治療にあたるのは重要なことです。しかし、精神科医療の場合は特に、「できる限り、年齢相応の健康的な生活レベルの確立や、人としての成長をめざす」ことを最終的な目標として、救急・急性期医療からリハビリ、地域生活への復帰、一般就労、復職支援まで、一貫した支援体制のもとに治療を進めていく必要があります。

統合失調症の患者さんの症状としては、陽性症状(幻覚、幻聴、妄想など)、陰性症状(集中力の低下、コミュニケーションの支障、引きこもりなど)、認知機能障害(注意力の低下等)などの精神症状が認められます(下図)。一般的には、思春期~青年期、10歳代後半~20歳代で発病する場合が多く、成績が下がったり、仕事の効率が落ちたりして周囲から気づかれることがよくあります。女性の場合、閉経後に発症することも少なくありません。

近年、急増しているうつ病や認知症と違い、統合失調症は増加傾向にあるわけではありませんが、100人に1人程度発症する決して珍しくない病気で、基本的に完治することが少なく、継続した治療が必要となります。しかし、現在は生物学的アプローチ(薬物療法)を中心に、心理学的アプローチ(リハビリなど)や、社会学的アプローチ(環境調整など)と一体となったチーム医療が進歩してきているため、治療成績はかなり向上してきており、重症の患者さんは減ってきています。早期発見ができれば、軽度で済んでスムーズに社会復帰できる場合が多く、現在では約20%の方が一般就労しているとされています。

薬物療法で症状を抑えつつ、QOL(生活の質)を高める

統合失調症は、できるだけ早期に兆候を認めて、薬物療法を行うことで再発を抑えられますが、原因を突き止めにくい病気のため、以前は症状を抑えることを第一に、かなり多くの薬を処方してしまう傾向にありました。それらの薬の中には、眠気を誘ったり、動作を緩慢にさせるなど、生活に支障をきたすものも少なくありませんでした。患者さんの社会復帰を進めるためにも、現在では副作用が少なく、生活機能を阻害しない薬を厳選して処方する傾向にあります。

薬を完全にやめてしまうと再発のリスクが高くなるため、薬物療法は長期に及びます。そのため、一か月に一回の筋肉注射だけで済む治療薬や、口の中に入れるとすぐに溶けるもの、一日一回皮膚に張り付けて使用するテープ状のものなど、服薬するという感覚を抑えた治療薬も開発されています。薬物療法で症状の再発を抑えつつ、患者さんのQOLを向上させることが図られているのです。

重篤な患者さんのための新しい治療法

新しい治療法としては、クロザピン治療があります。これは、一般治療薬では効果が上がらないタイプの治療抵抗性統合失調症に対して効果のある薬を投薬するもので、明らかな病状の好転がみられます。その一方で、白血球が減るという副作用が約1%の人に現れるため、処方を認められる機関が限られており、広島県では主に当院が治療を行っています。

一般の薬物治療で効果が上がらず、自殺の危険性があったり、物が食べられなかったりして命に関わるような重篤な患者さんには、ECT(電気けいれん療法)を行います。これは、全身麻酔をして電気で脳を刺激し症状を改善させるもので、高い効果が上がっています。

「電気でショックを与える」というと従来は危険なイメージがありましたが、現在では安全性が向上しており、多剤を大量に使う薬物療法よりも安全で効果が得られる場合もあります。また、クロザピン治療とECTを組み合わせて治療する場合もあります。今後も、新しい治療薬や治療法について、治験結果をみながら積極的に取り入れられていくと考えます。

統合失調症は原因を特定できない病気ですが、遺伝子研究が進めば、10~20年後には発病リスクのある遺伝子が検出できるようになり、統合失調症にかかる確率や即効性のある薬などが分かるようになるかもしれません。心理的な問題もあるとはいえ、統合失調症の実態は脳の病気ですので、脳科学の進歩によって原因が解明される可能性もあります。

心理教育プログラム――病気との上手な付き合い方を学ぶ

統合失調の治療を考える際に、今後のキーワードとなるのが「地域支援」「地域移行」です。これからは、患者さんが地域の中で自分らしく生きていくことを目標に、入院の初期段階から外来治療や地域社会への復帰を視野に入れて治療プログラムを組んでおくことが、ますます必要になっていくと考えます。

当院で行っている心理教育プログラムでは、基礎編(入院中に病気の初歩的な対応法を学習する)、応用編(社会生活を送った上で実際に起きた課題に対して、外来診療としてグループミーティングを中心に解決していく)に分けて行っています。統合失調症の患者さんは病気を否認する気持ちが強い場合が多いため、まずは病気に対する正しい知識を持ってもらい、ストレスに対処し、慢性化しやすい病気と上手に付き合っていくためのものです。

この病気は患者さんとご家族との関わりが非常に重要で、地域社会への復帰はご家族の協力が欠かせないため、当院の家族教室(病気との付き合い方を学ぶ)や、身近なかかりつけ専門医を持って有効に利用してみてください。

夢や希望を大切にした就労支援などのサポート

心理教育プログラムは、あくまでも「病気を受け入れて、どう付き合っていくか」という視点に立ったプログラムであり、これだけでは不十分です。患者さんがより生き生きと生活できるようにサポートするため、終了後に社会スキルトレーニング(一般就労支援など)を行っています。認知機能や集中力を改善させ、地域社会や職場での実践力を高めるためのプログラムを、デイサービスやデイケアの形で週一回程度のペースで継続していきます。

現在では、統合失調症の患者さんに対する就労支援の考え方も変わってきています。従来は、職業トレーニングができた患者さんの就労支援を行っていたのですが、現在は、患者さんの希望を大切にし、やりたい仕事があればまずその現場に行ってもらい、そこからトレーニングを始めるようにしています。その方が社会復帰がスムーズで、症状も良くなる場合が多いです。当院でも、患者さんの夢や希望を大切にし、興味・関心に基づいた就労をめざし、就職活動の支援から採用後の職場定着支援まで、継続したサポートを行っています。

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