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認知症を恐れず向き合う日常生活へ ──認知症の診断・治療・支援を理解するために

広島市西部認知症疾患医療センター岩崎 庸子 センター長

岩崎 庸子 センター長

いわさき・ようこ。
1989年広島大学医学部卒。
広島大学病院、県立広島病院(各研修医)、マツダ病院、賀茂精神医療センターなどを経て、2011年より現職。
2015年草津病院副院長。
精神神経学会専門医・指導医。
老年精神医学会専門医・指導医。

認知症は、脳にダメージを与える病気があるため日常生活に必要な機能が失われ、自立した社会生活が送れなくなっている状態をいいます。現在の医学では完治が難しい場合が多く、予防や進行を遅らせるため、生活環境を整える支援や医療が大切になってきます。ここでは、認知症医療の拠点を担う施設でリーダーシップを取り、地域と連携したサポートにも取り組んでいる岩崎庸子センター長に話を伺いました。

認知症にはさまざまな種類がある

認知症とは、認知機能が低下することにより日常の社会生活が普段通りにできなくなる、つまり、自立性が失われている状態のことをいいます。主な病気には、①アルツハイマー型認知症、②脳血管性認知症、③レビー小体型認知症、④前頭側頭型認知症があり、それぞれに特徴的な症状があります。

①は認知症の中で最も多い病気です。物忘れから始まる場合が多く、初期には段取りが苦手になったり、薬などの管理ができなくなる症状があります。②は脳血管疾患(脳出血、脳梗塞など)が原因となる認知症で、片麻痺や言語障害などの身体症状がみられる場合もあります。③は手足の震えや物忘れ、幻視を伴う特徴があります。④は脳の前頭葉・側頭葉が萎縮することが原因の認知症で、社会的な配慮や常識が失われ、「会話中に突然立ち去る」「同じ行動を繰り返す」など、性格変化がみられるなどの症状があります(下図)。

アルツハイマー型認知症のそれぞれの「時期」を知りましょう

認知症の多くは、進行性のため症状も変化していきます。表れ方には個人差があり、家族や周囲の人が認知症を理解して、対応していくことが求められます。代表的な認知症疾患であるアルツハイマー型認知症では、①症状のない時期、②気づきの時期、③発症した時期、④さまざまな症状が出てくる時期、⑤やや重度の時期があります(下図参照)。

①症状のない時期は予防の時期と考えて、人と交流したり、バランスの良い食事と適度な運動を心がけることが大切です。②気づきの時期には、「物忘れ」「いつも何かを探している」「好きだったものに興味がなくなる」「外出が億劫になる」などの変化が起き始めます。こうした気づきが早期発見につながり、本人や家族からの相談も増えてくる時期になります。③発症した時期には、日常生活で見守りが必要になります。「時間や日にちが分からない」「同じことを繰り返す」「料理など家事の失敗」といった症状があります。④さまざまな症状が出てくる時期には、日常生活に手助けや介助が必要になります。できないことも増えますが、行動には理由があり、頭ごなしに怒るのは禁物です。⑤やや重度の時期は、常に介護が必要となります。「一人で食事できない」「着替えや排せつができない」「寝ていることが多くなる」などの時期です。家族だけで抱え込まず、さまざまな施設やサービスを活用しましょう。どの時期も、本人への共感や周りの理解が不可欠です。

認知症の診断や治療で大切なこと

診断に大切なのは、患者さん本人の既往歴や経過をしっかりヒアリングすることです。例えば、電話で専門病院へ最初の相談があったとき、診療の予約を取るだけでなく、病院のソーシャルワーカーが聞き取りをする場合もあります。他の病院へ通院していた場合には病歴を確認するなど、きめ細やかに情報を受け取ってから、専門医の診療へと移ります。面談時の内容、本人の様子、CT・MRIの脳画像診断(必要な場合)を合わせた総合的な診断により、時間をかけて認知症かどうかを判定しています。

中には、慢性硬膜下血腫や正常圧水頭症などが原因で症状がみられる場合があり、外科的治療で改善するケースもあります。また、甲状腺機能低下症による症状も内科的な治療で対応できます。さらに高齢者の場合は、薬や脱水による意識の曇りなどが認知症に似た症状と判断されることもあるため、早めに専門病院を受診することをお勧めします。

治療では、アルツハイマー型認知症であれば抗認知症薬を使います。副作用も少ないため、初期の患者さんなら正しい服用で進行を遅らせる効果があります。個人差で胃腸の不快などの症状が服用時にみられますが、他の胃腸薬と併用することで緩和できます。精神的な症状(妄想、興奮など)によって明らかに日常生活が困難な場合は、3か月を目安とした入院治療も選択できます。

認知症そのものには、決定的な治療法はありません。患者さんとご家族の生活の質を守り、高めるためには、専門医や医療・看護スタッフ、地域の支援施設、そしてご家族の連携により、患者さんの思いに寄り添うことが大切です。

地域のさまざまな施設を利用しましょう

各自治体では、認知症患者の増加に対応するためさまざまな支援を提供しており、自宅や介護施設で「その人らしく」過ごせるよう、医療・介護・生活支援・介護予防・住まいを柱とした地域包括ケアを整備しています。心配や不安なことがあれば、早めにかかりつけ医や専門病院、地域の健康・福祉窓口、地域包括支援センターへ相談してください。

また、地域の家族会などに参加して、孤立しない行動も大切です。認知症疾患医療センターでも、認知症疾患に関する専門医療相談や、認知症の検査・識別診断、認知症に伴う行動・心理症状に対応しています。

近年問題になっているのが若年性認知症(65歳未満で発症)への対応ですが、現在の施設基準では支援不足になりがちです。当院では、女性の若年性認知症患者に特化したデイケア施設を開設し、お互いの悩みや不安を共有しながら交流することにより、明るく元気に認知症と向き合う生活の維持に貢献しています。

認知症と“ともに”前向きに過ごす人生を

認知症の診断は、医師にとっても慎重かつ丁寧な姿勢が求められます。診断された患者さんは、「ああ、自分はもうだめだ」と悲観される方も少なくありませんが、「認知症は時間をかけてゆっくり進行する症状」と理解してください。つまり、「明日から急に生活が変わる」「周りに迷惑をかけるだけ」、すぐにそうなってしまうことはありません。認知症と前向きに向き合い、これからの人生を有意義かつ楽しく過ごせるためには、「何が必要か」「どういう方法があるか」考えていきましょう。

認知症の患者さん同士が孤立せず、心と体が活動できる間は趣味や楽しみを持ち、支え合える場面も数多くあります。私たちも、患者さんの生きてきた情報を知り、それを役立てながら、ご家族や周りの環境とともに「その人らしい」時間を過ごしていただけるよう努めています。ぜひ多くの人、そして出来事と関わり、心の折れない生き方を続けてください。

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