医者選び広島 クリニックサーチ

不登校・ひきこもり・発達障害診療の最新動向

広島市こども療育センター 心療部長、児童心理治療施設「愛育園」 園長西田 篤

西田 篤

にしだ・あつし。
1984年岡山大学医学部医学科卒。
天理よろづ相談所病院ジュニアレジデント、岡山大学病院、十全第二病院を経て、1991年広島市こども療育センター着任。
1998年「愛育園」園長。
2014年広島市こども療育センター心療部長。
医学博士。
全国児童心理治療施設協議会会長。
岡山大学医学部臨床教授。

同センター・同施設では、不登校やひきこもり、発達障害といった課題を抱える子どもたちに対して、医療・福祉・教育が一体となって支援を進め、育ちのサポートをしています。小学生以上を対象に、県下で最多、年間100人前後の新規不登校児の治療と家族支援を専門に行っている、広島市こども療育センターの西田心療部長に話を伺いました。

不登校が増えている要因とは――「子ども」「学校」「家庭」

不登校とは、文部科学省の定義では「何らかの心理的、情緒的、身体的、あるいは社会的要因・背景により、児童生徒が登校しないあるいは、したくともできない状況にある者(ただし、「病気」や「経済的理由」による者を除く。)」となっています。少子化で子どもの数自体は減っていますが、不登校の児童生徒の数は高止まりしており、割合としては増えています。

不登校には、①子ども、②学校、③家庭それぞれの要因があります。まず、①子どもの要因として、学校で求められる社会性や社交力が、その年齢段階において獲得できていないことがあげられます。これは少子化とも関係していて、以前に比べて、兄弟姉妹や近所の遊び仲間が少ないことから、子ども同士が集団の中で揉まれたり、我慢したり、折り合いをつけるような経験が乏しくなっています。スマホなどの独り遊びの道具を持てることの影響も大きいです。就学以降、規律ある学校生活では、自分中心の生活や行動を他人や状況に合わせ、適応することが求められますが、それが上手くできない子どもが出てきます。

②学校の要因としては、子どもだけでなく親も含めて、そこ(学校)が「行くべき所である」という意識が希薄になっていることや、不安や弱さを抱えた子どもを包摂するクラスの力が以前に比べて弱くなっていることがあげられます。

③家庭の要因としては、親自身が生活やその他のことで手一杯となり、子どもの悩みをじっくり聞けなかったり、余裕を持って関われなかったりすることがあげられます。結果として、安心して子どもを学校に送り出せなくなるのです。

不登校――カウンセリングやさまざまな経験で適応力をつける

治療では、まず不登校の始まりから治療に至るまでの悩みの整理をしながら、親子の気持ちを落ち着かせ、抱えている課題を認知してもらいます。そこから少しずつ、子どもが学校に行けることをめざします。ただ、本人が学校を休んで足踏みしている間も他の子どもたちは成長しているので、元の集団や学校に戻ることが困難な場合もあります。このような場合には、その年齢で期待される社会生活が送れるように、広島市こども療育センター「愛育園」(下写真右)のような児童心理治療施設で、さまざまな経験をして再登校に必要な力をつけていきます。

愛育園には通所部と寄宿部があり、どちらを選択するかは親子の希望や、見立て、治療方針によります。通所部の子どもは、平日の午前中に不登校児童生徒のための適応指導教室(右頁、下写真左)で学習支援を受け、午後はスポーツやイラスト、音楽などのグループ活動(下写真)を行います。また、キャンプ・園祭・お茶会(次ページ写真右)・花見などの季節の行事も体験します。行事や生活プログラムの中で重要な役割を担う体験や、仲間と一緒に何かをする経験を重ねていきます。これらの行事や活動は、寄宿部の子どもと一緒に行います。

一方、寄宿部の子どもは、原則として月~土曜まで園で生活し、週末は帰省して家族や地元の友だちと過ごします。園内には校区の小中学校の施設内分級があり、正式な学校教育や進路指導も受けられます。さらに、生活指導職員と一緒に、家での乱れた生活の改善、身辺自立に必要な生活スキルの習得、社会的自立のためのアパート探し、就職活動、生活相談などを行います。

そうした日々の生活支援や指導に加えて、通所・寄宿の両部とも、親子それぞれの定期的なカウンセリング(心理治療)を行います。その中で、過去の振り返り、現在の悩みの吐き出しや課題の確認・整理、将来のプラン作成などを行います。さらに、不安や不眠などの精神症状がある場合には、投薬治療も行います。

愛育園には高校卒業まで在園できますが、在園期間は平均すると、通所で約2年半、寄宿で約3年半です。最初は見通しが持てず、不安や焦りが強いのですが、自分と同じような困難な状況にあっても成長している先輩や仲間の姿を間近に見ることで、将来への展望や目標を持つことができ、「頑張ろう」という気持ちになっていきます。施設治療には、そうした利点もあります。

ひきこもり――根気よく本人に関わっていく

ひきこもりは、厚生労働省の定義では「様々な要因の結果として社会的参加(義務教育を含む就学、非常勤職を含む就労、家庭外での交遊など)を回避し、原則的には6か月以上にわたって概ね家庭にとどまり続けている状態(他者と交わらない形での外出をしていてもよい)を指す現象概念」となっています。

不登校児の多くは家から出ることができますが、残りのひきこもり状態にある子どもは、近くのコンビニエンスストアぐらいには行けるものの、周囲との関係を断ち、社会参加ができない状態にあります。現在は、自室を中心とした家の中で生活を完結できるため、一日中ゲームをしたり、ユーチューブなどの動画サイトを見たりして過ごしている子どもが増えています。

治療は、基本的に不登校と同じで、まずは家から出られることをめざします。とはいえ、子どもの受診が難しいため、最初は間接的に親を通した働きかけを行い、外出を促していきます。根気よく関わることが大切で、それに数年かかることもあります。進級や卒業、進学の時期に周囲が意図した働きかけをすることが、本人にとって変化の必要を意識する時期であることとも相まって、改善のきっかけになったりします。

発達障害――子どもは適応できる力を、親は子とのかかわり方を学ぶ

発達障害は、発達障害者支援法では「自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害その他これに類する脳機能の障害であって、その症状が通常低年齢において発現するものとして政令で定めるもの」と定義されていますが、医学的にはDSM―5(米国精神医学会の精神疾患の診断・統計マニュアル)の神経発達症群を中心とした障害群をさします。近年、広く知れ渡ったことにより、親や先生(保育所・幼稚園・学校)、健診担当者などの課題認知の感度が良くなり、受診につながる子どもが増えています。

発達障害児が生後から抱える特性は変わりづらいため、そうした特性があることを踏まえた上で、成長過程における歪みを少なくしたり、生活状況に上手く適応できる方法を習得できるようにします。そのために、まずは正確な診断を行い、どういう発達の遅れや偏りがあるのかを見立て、親に理解してもらうことから始めます。その上で、子どもの療育教室参加や、親が心理教育を受けたり具体的な関わり方を学ぶペアレント・トレーニングなどを行います。

最近は、PCIT(親子総合交流療法)という、幼い子どもとその心や行動上の問題に悩む親(養育者)の相互交流を深め、その質を高めることで回復につなげる心理療法も行われます。そうした幼少期の支援の一方で、就学以降、年長になって生じる粗暴行動や他害行為、自傷や精神症状といった、他者を巻き込んだり、自身の健康を害するような問題に対しては、カウンセリングとともに投薬や入院といった、より積極的な治療を行います。

不登校・ひきこもり・発達障害は重なり合うことも多く、不登校の背景に発達障害を抱える子どもが増えていたり、大人のひきこもりの約3分の1に不登校歴があるといわれています。いずれの場合も、大切なのは周囲の大人が早めに子どものサインに気づき、医療や福祉の支援につながることです。日頃から子どもの様子を丁寧に観察し、気になることがあったら自治体の窓口、通学している学校、専門機関などに相談しましょう。

前のページに戻る
トップページに戻る
このページの上へ