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スポーツ整形外科の治療と現況

JA広島総合病院 名誉院長藤本 吉範

藤本 吉範

ふじもと・よしのり。
1979年広島大学医学部卒。
庄原赤十字病院、中電病院、広島大学医学部助教授などを経て2004年JA広島総合病院整形外科主任部長。
10年同院副院長。
14年同院院長。
医学博士。
日本整形外科学会専門医・指導医。
日本脊椎脊髄病学会評議員・専門医・指導医。
広島東洋カープチームドクター。
サンフレッチェ広島チームドクター。

スポーツにけがはつきもの、とよくいわれます。アスリートに限らず、スポーツ競技でのアクシデントや練習のしすぎによってけがや痛みを抱える人は多数います。そんな人を対象とするスポーツ整形外科はどんな対応をするところか。スポーツ医学を専門とし、アスリートの治療を多く手がけてきたJA広島総合病院の藤本吉範院長に、スポーツ医学の現状も含め、話を聞きました。

スポーツによって生じる外傷・障害に対応

骨、筋肉、関節、神経など身体運動にかかわる組織や器官を「運動器」といいます。運動器の外傷や障害を取り扱うのが整形外科で、その中でもスポーツによって生じる捻挫、靭帯損傷 、脱臼 、骨折などの外傷や機能障害に専門的に対応するのがスポーツ整形外科です。

競技種目や年齢などによってアスリート特有の運動器疾患はありますが、スポーツによって生じる外傷や障害は、当然一般の人にも生じる疾患であり、疾患の診断や治療法も、その疾患が治っていく経過も、普通の整形外科と異なるわけではありません。

● あらゆる世代のスポーツによって起こる外傷・障害への対応
● 日常生活への復帰に加え、競技生活への早期復帰を視野に入れた治療
● 競技の特性に合わせたけがの予防の指導、およびリハビリテーション治療

これらがスポーツ整形外科の特徴です。スポーツ整形外科ではスポーツ医学の専門知識や診療経験の豊富な専門医が、子どもから高齢者までのスポーツ愛好家からトップアスリートまで幅広く対応し、患者やトレーナーと一緒に、スポーツの種類や競技レベル、目標などを相談しながら治療方針を決めます。スポーツ選手の治療は、日常生活に問題がないだけでは不十分で、競技への復帰やパフォーマンスの向上が不可欠なのです。

治療の基本はリハビリ

私は、スポーツ障害・外傷に対する専門的診療を行っており、広島東洋カープとサンフレッチェ広島のチームドクターを務めています。日常的な診療ではスポーツによるトラブルに限らず幅広い患者さんを診ており、その場合もアスリートの治療を通して得られたノウハウを一般患者さんの治療にも役立てるように努めています。

基本的には、スポーツ選手は手術せずに、リハビリで治していきます。手術以外に治癒が期待できない場合には手術しますが、それ以外の場合にはリハビリを優先します。

プロ野球の世界を見ると、近年、アメリカのスポーツ医学が導入され、競技復帰や積極的なスポーツ活動への復帰を目的とするアスレティックリハビリテーションの導入によって選手の故障が減り、選手寿命は格段に延びました。マツダスタジアムの中には充実したトレーニングルームがあり、選手自身のスポーツ医学に対する教育と自覚も高くなっており、ここで選手は試合の前後にウオームアップとクールダウンを率先して行っています。

トレーナーの果たす役割は大きい

選手の健康状態を直接管理するトレーナーの役割も大きく、我々ドクターは治療に関する方向性を決め、道しるべを示す存在としてトレーナーの後ろにいます。プロの世界では、スポーツ専門のトレーナーが現場に積極的に介入する機会が増えて、選手のコンディショニングが保たれ、けがの減少につながっています。

トップアスリートの世界では、NATA(National Athletic Trainer’s Association=全米アスレティックトレーナーズ協会)認定のアスレティックトレーナーなど、スポーツ医学に特化したライセンスを持っているトレーナーが選手の活動をサポートしています。トレーナーのレベルアップに伴い、プロ選手のスポーツ障害は減っています。サンフレッチェ広島は、毎月、ドクターとトレーナーが集まってミーティングを行い、意見交換しています。こうしたメディカルスタッフの充実とレベルアップによって、昨今のプロのスポーツ医学の世界は非常に充実したものになっています。

高校野球の世界でもスポーツ医学に対する意識は向上してきていますが、全国レベルで見るとスポーツ医学的な管理はまだ十分とは言えません。それは他の競技にも言えることですが、サンフレッチェ広島のユースに関してはトレーナーがきちんとチェックしています。

子どもの場合、野球やサッカーで圧倒的に多いのは腰椎分離症です。分離症の治療は、手術はせず、各選手をダイレクトに見ているトレーナーの目でその原因を分析し、腰椎の動きを改善させるトレーニングを取り入れることで良くなることがしばしばあります。スポーツ障害は、手術するケースは少なく、ほとんどの場合がアスレティックトレーニングでカバーできます。医師だけでなく、トレーナーも一緒に総合的に治療していきます。さらに、選手自身の自覚、指導者のスポーツ医学の理解も重要です。

プロスポーツの世界は生き残りゲームですから、故障しない(あるいは故障しても復帰する)ことが求められます。そのため故障を隠して競技を続け、ぎりぎりになって助けてと受診してくる若い選手がいますが、それでは遅過ぎます。障害を初期に見つけ、早期に治療を始めることが重要です。そういうシステムができていないと、障害が起きた選手は置いてけぼりになってしまうわけです。

顕微鏡手術(マイクロ・サージャリー)の利点
1 肉眼で手術するよりも小さな切開で、安全な手術が可能
2 小さな術野を術者と助手が同時にみることができる
3 低侵襲手術ができる

基本的に低侵襲手術

手術が必要になると、我々の出番です。スポーツ選手の手術は、基本的に低侵襲手術で、できるだけ小さい切開で治すことを目指します。内視鏡、関節鏡などをベースに、顕微鏡の活用、さらに切らずに経皮的に治すなど、できるだけ体にダメージを与えない方法を工夫しています。侵襲を小さくし早期の復帰を目指すことが求められますが、なるべく早くというのは少し危険でもあるわけです。復帰は早い方がいいのですが、あまり早過ぎると再発のリスクもあり、それを選手に自覚してもらって復帰を目指します。そこでもトレーナーの存在が重要で、ドクターも一緒に術後のメンタルケアに努めながら、リハビリしていきます。

近年、リハビリで言われているのが、体のコア、骨盤と背骨のアライメント(軸位)を正しくすることです。コアの訓練や関節の柔軟性の強化を意識することで、動きの中でバランスがとれるようになり、けがや故障防止につながります。スポーツ医学への理解と自覚が高まったことで障害が減ってきているのはプロに限らず一般の方にも言えることで、ベースとしての体作りに目が向いたことで、けがは確実に減っています。

スポーツ整形外科の役割は、スポーツ競技特有の疾患に関して専門的な診療をするだけでなく、元のスポーツのフィールドへの復帰を目指し、さらにベースの体作りをし、けがの予防に努めるところから始まると考えています。

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