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「腰椎椎間板ヘルニア」――脊椎・脊髄疾患

JA広島総合病院 整形外科 脊椎・脊髄センター 脊椎・脊髄センター長、整形外科部長、急性期リハビリテーション科部長山田 清貴

山田 清貴

やまだ・きよたか。
1999年鹿児島大学医学部卒。
医学博士。
広島市立安佐市民病院、広島大学大学院などを経て2009年より現職。
専門分野は脊椎脊髄外科、低侵襲手術。
日本整形外科学会専門医。
日本整形外科学会認定脊椎脊髄病医。
日本脊椎脊髄病学会認定脊椎脊髄外科指導医。
最小侵襲脊椎治療学会評議員。
North American Spine Society international member。

JA広島総合病院 整形外科 脊椎・脊髄センター 病院長藤本 吉範

藤本 吉範

脊椎脊髄(せきついせきずい)疾患は、腰痛、手足のしびれ感、手足の運動障害・麻痺(まひ)などの訴えが多く、スポーツ整形外科分野での代表的な疾患としては、腰椎椎間板(ようついついかんばん)ヘルニア、腰椎分離症(ようついぶんりしょう)があります。

「どんな病気?」

腰痛や、殿部(お尻)から下肢(足)に痛みやしびれを生じることが多い

腰椎椎間板ヘルニアは、椎間板内の髄核組織が線維輪を破り、椎間板組織が脊柱管内に突出して馬尾や神経根を圧迫し、腰痛や下肢痛を起こす疾患です(図1)。

腰椎椎間板ヘルニアの一般的な有病率は、男女比が約2〜3:1、好発年齢が20〜40歳代、好発部位がL4/5、L5/S1です。スポーツ外傷による腰椎椎間板ヘルニアは10歳代半ば以降で発生しています。有病率についての正確なデータはありませんが、スポーツ外傷の2.8~27%が腰部傷害であり、このうち2.7~21.6%が腰椎椎間板ヘルニアと診断されています。腰椎椎間板ヘルニアの危険因子には喫煙や重労働などが挙げられていますが、スポーツを含めて明らかなエビデンスはありません。

「検査と診断」

MRIは必須の検査

腰椎椎間板ヘルニアは、問診や理学所見、画像所見を総合的に判断し、診断します。下肢神経症状に対してはSLRテスト*1が有用な所見となり、特に若年者で強くなる傾向があります。画像検査ではMRIが非侵襲的に椎間板ヘルニアや神経の圧迫の程度の評価が可能であるため診断的意義が高く、必須の検査となります(図2)。

「治療法」

初めは保存療法を実施

腰椎椎間板ヘルニアは自然に縮小したり、大きさは変わらなくても症状が改善する場合も多いため、まず保存療法を行います。一般的には膀胱直腸障害や筋力低下などの麻痺症状がある場合や痛みが長引く場合など、保存療法で効果がない場合は手術適応となります。スポーツ選手に対してはMMT*24以下の筋力低下やパフォーマンスが長期に低下した場合に手術を検討しています。

1)保存療法
スポーツの休止や制限、コルセットの装着などを行い、腰への負担を減らします。さらに、痛みや炎症を抑えるために非ステロイド性消炎鎮痛薬などの内服、湿布薬、塗り薬などの外用薬を使用します。オピオイド系鎮痛薬などドーピング監視リストに入っている薬物には十分な注意が必要です。薬物療法でも痛みが改善しない場合にブロック療法を選択します。仙骨裂孔や腰椎部からの硬膜外ブロック、選択的神経根ブロックなどがあり、神経やその周囲に薬剤を注入し、痛みや炎症を抑えます。
安静期間を最小限にするため、アスレティックリハビリテーションを行います。体幹部、下肢の関節のストレッチングやモビライゼーション、コアエクササイズなどを行い、痛みの許容範囲内で体を動かすことで早期機能回復を目指します。

2)椎間板内酵素注入療法
2018年から行われているコンドリアーゼ椎間板内注入療法は、椎間板へ直接薬剤を注入し、椎間板内の髄核組織を融解することで椎間板内圧が低下し、神経への圧迫を軽減する治療です。現在1回限りしか使用できず、スポーツへの復帰可能時期や長期的な治療成績はまだ明らかではありませんが、日帰り治療が可能で、安静期間が1週間程度などの利点があります。

3)手術療法
手術には顕微鏡下椎間板摘出術(MD)、内視鏡下椎間板摘出術(MED)、全内視鏡下椎間板摘出術(FED)などの術式があります(図3)。いずれも低侵襲な手術で、一般的には手術方法の違いによる治療効果には差がないとされています。スポーツ選手に対しては早期復帰と同時に高い運動能力の再獲得が必要ですから、当院ではより低侵襲な術式であるFEDを第1選択とし、FED適応外の場合に他の術式が適応となると考えています。FEDは直径8mmの内視鏡を挿入しヘルニアを摘出するため、筋肉や靱帯、骨組織などの正常組織への侵襲が最も少ない手術方法です。

*1 SLPテスト(下肢伸展挙上テスト):被検者を仰向けにし膝を伸ばしたまま下肢を持ち上げる。通常は80〜90度まで挙上できるが、下肢神経痛がある場合は痛みのため挙上が制限される。

*2 MMT(徒手筋力テスト):個々の筋力を評価する検査法。5(正常)~0(筋収縮なし)の6段階で評価する。

4)リハビリ
保存療法や手術療法で痛みなどの症状が改善した後も、姿勢の再教育や連鎖運動の強化が必要であり、アスレティックリハビリテーションを継続して行います。手術療法の場合、スポーツへの完全復帰は術後8~12週としたプロトコール(治療計画)が多く、低侵襲な手術では復帰期間がより短縮できる可能性があります。

「予防と早期発見」

初期兆候の早期発見が大事

腰椎椎間板ヘルニアを含めたスポーツ選手の腰部障害の初期症状は「腰が重い、張る、硬い」などの自覚症状として出現し、他覚的には姿勢異常(アッパークロス症候群)、体幹筋の柔軟性低下を認めます。

これらの初期徴候を早期に発見することが重要であり、定期的に全選手の柔軟性、関節、姿勢、神経筋のコントロールを評価することは、腰部障害の予防だけでなく、パフォーマンスの向上、さらには選手寿命の延長につながります。選手個人の腰部障害に対する教育と自覚のもとにエクササイズを積極的に行うことが重要であることは言うまでもありません。

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