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「腰椎分離症」――脊椎・脊髄疾患

広島大学病院 整形外科 助教中前 稔生

中前 稔生

なかまえ・としお。
2001年広島大学医学部卒。
医学博士。
ヨーテボリ大学、JA広島総合病院などを経て2017年より現職。
専門分野は脊椎脊髄外科。
日本整形外科学会専門医。
日本脊椎脊髄病学会認定脊椎脊髄外科指導医。
日本整形外科学会脊椎脊髄病医。
日本スポーツ協会公認スポーツドクター。
サンフレッチェ広島、広島東洋カープチームドクター。

JA広島総合病院 整形外科 脊椎・脊髄センター 病院長藤本 吉範

藤本 吉範

脊椎脊髄(せきついせきずい)疾患は、腰痛、手足のしびれ感、手足の運動障害・麻痺(まひ)などの訴えが多く、スポーツ整形外科分野での代表的な疾患としては、腰椎椎間板(ようついついかんばん)ヘルニア、腰椎分離症(ようついぶんりしょう)があります。

「どんな病気?」

成長期に腰痛が出現

腰椎分離症は腰椎に生じる疲労骨折で、成長期スポーツ選手の腰痛の原因として注意が必要です。好発年齢は14、5歳といわれていますが、小学生の報告もみかけます。性差は男性が女性に比べ4、5倍多いといわれています。疲労骨折の後、骨がつかない場合は偽関節といって骨欠損部(分離)が生じる状態となります(図1)。

トップアスリートでは3割から4割の選手に腰椎分離を認めるという報告もありますが、すべての選手で腰痛を生じている訳ではなく、プロ選手として第一線で競技しているアスリートも多くいます。腰椎分離症が進行すると、将来的に骨のズレなどが生じて神経を圧迫し、下肢痛・しびれや慢性的な腰痛が起こる場合があります。

「原因」

腰椎に負担がかかる

腰椎分離症の初期である腰椎疲労骨折の起きる原因としては、スポーツなどで腰を後ろに反らしたり(伸展)、左右に捻ったり(回旋)する動作を繰り返すことで、腰椎にストレスがかかり、疲労骨折を生じると考えられています。スポーツ種目としては腰椎の伸展・回旋の頻度が高いサッカーや野球、バレーボールでよくみかけます。また、右投げ投手の左側、右利きバレーボール選手の左側の腰椎に生じることが多いといわれています。さらには、体が硬い人に分離症は発生しやすいともいわれています。

「症状」

運動時の腰痛

多くは運動時の腰痛です。寝ている状態などの安静時の腰痛はまれです。腰を反らしたり捻ったりしたときの腰痛が典型的ですが、その他の運動でも腰痛がみられることがあります。また初期に、片側の下肢痛などの神経根症状が出現することもあります。

「検査と診断」

診断に苦慮する際はMRIを

理学所見では、腰を反った際の腰痛の確認や腰の圧痛(押さえての痛み)があります。画像検査では、初期ではレントゲンではっきりしないために、MRIやCTが有用になります(図2-①、②)。特にMRIでは超初期の疲労骨折の状態を骨の中の炎症性変化の有無で判別できます。レントゲンで分離が明らかな場合は、かなり進行している状態であることが考えられます(図3)。初期であれば約90%で骨はつきますが、進行していくと60%、30%と骨がつく割合は低下していきます。

よって、より早期に検査を行って診断をつけ、より早く治療していくことが重要になります。成長期で、腰を反らしたり捻ったりしたときの腰痛が1~2週間続けば、整形外科の専門の先生に診てもらった方がいいでしょう。

「治療法」

病期に合わせた治療を

初期ではスポーツを禁止した上で、約3か月間のコルセット固定を行います。超初期ではコルセットなしでスポーツを禁止するだけでの治療をすることもあります。やや進行している場合にはコルセット装着を6か月間行うこともあります。もちろん、しっかりと治療したとしてもさまざまな要因(何番目の腰椎か、両側性か片側性か、MRIでの炎症性変化の有無、CTでの骨硬化の程度など)により骨がつかないこともあります。

また初診時にレントゲンで分離がはっきりと分かり、CTで分離部に骨硬化を認める際には、骨がつく可能性はほとんどありません。このような場合にはコルセットを装着せずに、痛みに対する治療(痛み止めの薬やリハビリ)を行いながら早期スポーツ復帰をめざします(図4)。

「リハビリテーション」

体の柔軟性を

再発を予防する意味でもアスレティックリハビリテーションなどをしっかりと行うことが重要となります。体が硬い人に分離症は発生しやすいともいわれているので、腰のストレッチだけでなく、股関節や肩甲帯、胸郭の柔軟性を常日頃から獲得しておく必要があります。ジャックナイフストレッチは股関節や膝関節、骨盤の動きを改善させる有用なストレッチです(図5)。リハビリをするにあたって、本人が自身の状態を十分に理解した上で、モチベーションを維持しながら予防・再発防止に努めるべきであると考えます。

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