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「投球障害肩(野球肩)」「反復性肩関節脱臼(外傷性肩関節不安定症)」――肩の疾患

県立広島病院 整形外科 副院長・主任部長望月 由

望月 由

もちづき・ゆう。
1983年広島大学医学部卒。
県立広島病院、広島大学病院整形外科准教授などを経て、2008年より現職。
同院副院長兼任。
日本整形外科学会認定整形外科専門医。
日本肩関節学会理事。
日本体育協会スポーツドクター。
広島カープ 球団チームドクター(肩関節部門)など。

広島はスポーツが盛んな地域です。当院には多くのスポーツ選手が受診されます。スポーツ種目では、野球やサッカー、バレーボール、バスケットボール、ハンドボール、ラグビーをはじめ柔道や剣道などよく知られたスポーツから、スケートボードやSUP(サップ)(スタンドアップパドルボード、ボードの上に立ってパドルを手に水面を進むスポーツ)といった新しい競技など多岐にわたります。このようなさまざまなスポーツ選手のけがを治療してきた実績があります。今回は、投球傷害肩・とうきゅうしょうがいかた(野球肩・やきゅうがた)と反復性肩関節脱臼・はんぷくせいかたかんせつだっきゅう(外傷性肩関節不安定症・がいしょうせいかたかんせつふあんていしょう)について述べます。

投球障害肩(野球肩)

「どんな病気?」

投げると肩を痛める?

物を投げるという動作は野球の投球動作に代表されます。その投球動作に代表されるオーバースローイング動作を繰り返すことにより肩関節に生じる障害の総称が投球傷害肩です。野球に限らず、やり投げやテニスのサーブ、他の投擲競技も同様です。具体的に損傷部位を列挙すると限りがないくらい肩関節のさまざまな部位が損傷されていることが多いのですが、年齢により損傷される部位に特徴があります。成長期に多いのは「リトルリーグ肩」と呼ばれる成長軟骨の損傷です。投球動作により強力なストレスが成長段階にある肩関節に加わると障害が生じます。

一方、高校生や大学生、社会人やプロの選手では関節唇や腱板が傷むことが多い傾向があります。関節唇は肩甲骨の関節窩の周囲を縁取りして関節の安定性を担っている軟部組織です。また、肩のインナーマッスルの腱成分である腱板の関節面側がえぐられるように損傷されていることが多いです。

「原因」

使い過ぎ(オーバーユース)による疾患

一番の原因は、オーバーユースによる、肩の使い過ぎだと考えられます。最近では、少年野球の段階から投球数の制限も行われています。肩を痛める前に肘を痛めるケースも多くみられます。

予防するには、スポーツを始める前に、きちんとウォーミングアップして、終了後にはクールダウンを行うことが大切です。下半身と体幹で投げることが重要で、肩に過度の負担が加わらないようにすべきです。肘が下がらないようにするなど、投球フォームの調整も大切です。野球の経験者が監督をしていることが多く、テクニカルなことは指導できても、どうしても医学的な観点は十分とはいえません。このため、もともと肩を痛めていた選手が無理をし、悪化することもあります。

「検査と診断」

問診や身体所見などを最重要視

肩の違和感や痛みを自覚してから来院される場合がほとんどです。まずは十分に患者さんの話を聞く、問診が大切です。うかがった症状をもとに身体所見をとります。投球フォームのビデオがある場合には、それを観ることも重要な診断材料になります。投球動作のどの段階で痛みが出るか、例えば振りかぶったとき、ボールをリリースするときなのかを知ることも重要なポイントです。

これで大部分の診断ができますが、補助的かつ確定的なものとして、画像診断を行います。レントゲンやMRI検査による診断になりますが、こうした画像検査を通して、骨や腱、筋肉、靭帯などを正確に評価することで、障害部位を特定することが可能になります。肩の痛みであっても、ほかの部位に原因がある場合もあります。

「治療法」

保存的治療を中心にした治療を勧める

保存的治療を中心にした治療になります。基本的にはノースローになりますが、ボールを全く握らないというのではなく、軽いキャッチボールなら可能とする場合もあります。

基本的には炎症が収まるのを待ってから投球再開となりますが、患者さん本人だけでなく、家族、チーム関係者とも十分に話をして、連携を取りながら治療を進めて行きます。また、高校生以上なら痛み止めの注射を用いることもありますが、あくまでも対処療法になります。

手術に至るケースは全体の5%以下です。保存的治療で症状が改善されない場合、損傷された関節唇を形成し、安定性を獲得する手術をします。「関節鏡下関節唇形成術」という内視鏡を入れて行う手術を実施しています。関節鏡を用いると皮膚の切開が小さく、手術による周囲の軟部組織のダメージも少なく、術後の痛みも少ないので、日常生活やスポーツへの早期の円滑な復帰が可能となっています。

「リハビリテーションやトレーニング」

インナーマッスルの筋肉トレーニングを重視

リハビリテーションで重要なのは、インナーマッスルの筋肉トレーニングです。手術で筋肉が落ちた場合はなおさら大切です。肩を痛めたとしても肩以外の部位にも痛みを引き起こす原因を抱えています。障害予防の観点から体のメンテナンス方法の習得を目的とした指導や、筋力トレーニングの指導を実施することが大切です。肩甲骨周囲のトレーニングや体幹のトレーニング、肩関節のインナーマッスルのトレーニング、肘関節周囲の筋力のトレーニング、スナップ動作のトレーニングなどになります。

反復性肩関節脱臼(外傷性肩関節不安定症)

「どんな病気?」

肩関節に脱臼しやすい道ができる

スポーツによる反復性肩関節脱臼は、「外傷性肩関節不安定症」とも呼ばれます。外傷により肩関節の脱臼が繰り返されることによって、肩関節の組織が損傷され、簡単に脱臼しやすくなる道ができた状態です。強いコンタクトが繰り返されるスポーツ、例えばラグビーやレスリング、柔道などで多く発生します。これを予防するためには、関節の安定性を高める役割がある筋肉を強化することが大切です。

「原因」

脱臼によって軟部組織が損傷される

肩関節では骨と骨の間の接触面が小さく、関節の安定性は関節包や関節唇、靭帯などの軟部組織によって支えられています。脱臼を繰り返すと、軟部組織が高度に損傷されてしまい、日常生活動作でも脱臼するようになる場合があります。

「検査と診断」

損傷の部位と程度は症例により異なる

投球障害肩と同じように、基本は問診聴取と身体所見です。脱臼を繰り返したために損傷される肩関節の中の部位や程度は症例により異なります。そのため、レントゲンやCT、MRI検査などの画像検査を必要に応じて行います。

「治療法」

保存的治療と手術的治療

一般的には、肩関節が脱臼した場合3週間程度固定します。その後、不安定性が消失する場合と反復性に移行する場合があります。このため、固定時には鍛えようと思い無理をしないことが重要です。脱臼を繰り返し、日常生活やスポーツに支障を生じる場合には手術的治療の適応になります。

反復性肩関節脱臼(外傷性肩関節不安定症)の場合には、肩関節の関節窩の周囲の縁取りをして関節の安定性に起用する関節唇と、それに連続して関節の安定性を主に司る靭帯があわせて損傷されていることが多いです。これがいわゆる「バンカート病変」といわれる病変です。これらの病変をもとの位置に修復するのが「鏡視下バンカート修復術」です。関節鏡を使い行うもので大きな傷がつくことはありません。

まず、関節鏡を用いて関節内を精査し、損傷部位と脱臼する肢位※での脱臼程度や方向を調べます。そして、関節唇靭帯複合体を関節窩から剥離します。アンカーという糸つきのビスを関節窩に打ち込み、剥離した関節唇靭帯複合体を縫い合わせます。手術後は、3~6週間固定します。少しずつ動かしますが、腕を上にまで上げるのが1か月、重いものを持つのが3か月、コンタクトスポーツに復帰するまでには6か月かかるのが、一応の目安になります。

※肢位:外転外旋位といって、肘を90°に曲げて、そのまま肩を外側に90°開いた姿勢

「リハビリテーションやトレーニング」

関節の動きと安定性を改善するためのリハビリテーション

脱臼し損傷された組織が落ち着くのは約3週間といわれています。その間も、損傷された部位や修復された部位に負荷が加わらない範囲で少しずつ肩関節の可動域を改善していきますが、無理は禁物です。肩関節の可動域が改善してから、インナーマッスルの筋肉トレーニングを行います。

スポーツ復帰については、軽いジョギングから開始し、肩関節の安定性が維持されていることを確認し、徐々にスポーツ復帰していきます。大切なのは、本格的なスポーツ復帰に向けてのトレーニングです。チームのコーチや監督あるいは家族の方々ともコミュニケーションを十分にとって、スポーツ種目に応じた、しかも損傷・修復された肩関節の状態や個人の特性にも合わせたスポーツ復帰のための練習メニューを作成することが大切です。

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