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「前十字靭帯・半月板損傷」「離断性骨軟骨炎」――膝の疾患

マツダ病院 整形外科 副院長月坂 和宏

月坂 和宏

つきさか・かずひろ。
1986年広島大学医学部卒。
広島大学病院などを経て、2000年よりマツダ病院勤務。
日本整形外科学会・整形外科専門医。
日本整形外科スポーツ医学会代議員。
中部整形外科災害外科学会評議員。
日本リハビリテーション医学会認定臨床医。
日本スポーツ協会公認スポーツドクター。
サンフレッチェ広島・チームドクター。

膝関節疾患は年齢層によって異なります。若い人ではスポーツなどによる前十字靭帯損傷(ぜんじゅうじじんたいそんしょう)、半月板(はんげつばん)損傷、離断性骨軟骨炎(りだんせいこつなんこつえん)が多い傾向にあります。まずは正確な診断をして病態をしっかりと把握し、患者さんの年齢や活動性、ニーズなどを考慮しながら治療法を選択しています。

前十字靭帯・半月板損傷

「どんなけが?」

カクンと「膝が抜ける」、ガクッと「膝が崩れる」

膝前十字靭帯(Anterior Cruciate Ligament、以下ACL)は膝関節の安定性のためにとても重要な靭帯であり、これが損傷するとカクンと「膝が抜ける」、ガクッと「膝が崩れる」などの不安定性によって、日常生活やスポーツに支障をきたしてしまいます。

ACLを損傷したままで運動や生活を続けていると、半月板や軟骨などの膝のクッションの役割をする組織が傷ついてきます。ACLと半月板損傷はリンクする場合が多いといえます。ACL損傷からの時間が長ければ長いほど、膝が痛くなる、腫れる、引っかかるなどの症状が出やすくなります。

「原因」

ジャンプからの着地、急停止、急な方向転換で発生

ACL損傷は、スポーツ活動中に発生することが多く、接触プレーよりもジャンプからの着地、急停止、急な方向転換などによって発生します。

けがをして間もない急性期には膝関節の中に血が溜まり腫れます(関節血腫)。スポーツ外傷による膝関節血腫の原因で最も多いのがACL損傷です。時間が経過すると、半月板や軟骨または他の靱帯損傷が合併していなければ、さほど強い痛みを感じることはありません。半月板や関節軟骨の損傷を合併していると、痛みやひっかかり感を伴うことがあり、断裂した半月板がロッキング(断裂した半月板が関節に挟まる)している場合には、膝がまっすぐに伸ばせないなどの症状も伴います。

「検査と診断」

医師の手によるラックマンテストやピボットシフトテスト

ACL損傷の診断は、医師の診察による不安定性テスト(ラックマンテスト、ピボットシフトテスト)とMRI検査などにより行われます。医師の「手」による診断が基本で、それに加えて画像診断を使っています。

けがをしたときの状況を聞き、膝の診察(靱帯が切れているか、痛み、腫れがあるかなど)、MRIなどの所見、膝のゆるみの検査などから総合的に診察し、診断します。

けがをして間もない時期には、痛みや腫れにより十分な身体所見がとれず、診察を受けても明らかに診断されない場合があります。MRI検査はACL損傷の診断に有用で、靭帯だけでなく、半月板、骨、軟骨などの他の組織も同時に評価することができます。損傷のパターンにもさまざまあり、その意味でもMRIは重要といえます。

「治療法」

多くの場合、手術が必要

ACLがいったん損傷すると自然に完全治癒することは期待できません。しかしある程度不安定性が改善する場合もあります。急性期が落ち着いて痛みや腫れがなくなってから、不安定性を再確認して手術が必要か否かを判断します。スポーツ選手においては多くの場合、手術が必要です。また半月板損傷を合併している場合などは、早期に手術が必要な場合もあります。

断裂したACLは縫い合わせることが難しいため、「解剖学的に正確な位置にある靭帯は、膝関節を正しく機能させる」という考え方のもと、ACLを再建しています。再建靱帯にはハムストリング(半腱様筋腱や薄筋腱)や骨付き膝蓋腱を用い、体格やスポーツ特性に合わせて使い分けています。関節鏡を用いて大腿骨と脛骨に骨孔をあけて移植腱を通して固定する方法が一般的です。術直後は移植腱には血行がないので、その生着や成熟には長い時間が必要であり、スポーツ復帰には通常8か月以上かかります。

近年、切れてしまった靱帯断端(レムナント)をどのように扱うか議論されています。受傷後数年経過すると、断端は徐々に吸収されてなくなってしまいます。しかし、レムナントが連続している場合は、この中に血流とともに関節位置覚を察知する神経終末も残っていることが明らかになっています。ACL再建術ではいったん取り出した血行のない移植腱を植え込むわけですから、手術の際にレムナントが残っている場合は、それを温存して血管が早期に進入しやすいように、かつ残っている神経終末をそのまま生かせるように、再建する方法も行っています。

半月板損傷がある場合は、その断裂形態に注意が必要です。MRIで判断します。半月板は血行がほとんどないので治りにくく、断裂の仕方によっては手術で切除または縫合術が必要となります。半月板を切除するとクッションの役目がなくなるので、将来的には軟骨がすり減るなどの老化現象を早く来すことになります。

したがって半月板断裂では、半月板を元通りに戻すために縫合術を積極的に行っています。治りにくい部位の断裂に際しては、手術中に採血し血液を糊のように固めたフィブリンクロットを作成し、半月板断裂部に挟み込んで縫合しています。フィブリンクロットにはさまざまな成長因子が含まれ、また細胞侵入の足場になるといわれています。

ACL再建手術の場合、スポーツ復帰には8か月以上を要します。けがする前の健常な状態が「100点」としたら、手術だけでその状態に戻れるわけではありません。ACLが元通りに治るわけではなく、実際に完全復帰できて初めて「100点」がとれるわけです。手術だけで到達することはできず、筋力やアジリティー※の回復も含めてリハビリテーション(以下、リハビリ)の関与が不可欠です。

※アジリティー:運動時に身体をコントロールする能力

離断性骨軟骨炎

「どんな疾患?」

部分的に関節の軟骨が骨ごと剥がれて痛みが出る

初期の段階では軟骨片は遊離せず、運動後の不快感や鈍痛のほかは特異的な症状は出ません。関節軟骨の表面に亀裂や変性が生じると痛みも強くなり、特にスポーツで支障をきたします。骨軟骨片が遊離すると関節の中をちょろちょろ動き回るので関節ネズミと呼ばれ、引っかかり感やズレ感があったり、ゴリっと音がして激しく痛む場合があります。

「原因」

繰り返されるストレスや外傷により軟骨の裏の骨が壊れてくる

成長期のスポーツ選手に起こり、繰り返されるストレスや外傷により軟骨の裏の骨に負荷がかかることが原因と考えられています。血流障害により軟骨の裏の骨が壊死し骨軟骨片が分離、遊離します。膝関節では大腿骨の内側85%、外側15%でまれに膝蓋骨にも起こり、外側例では円板状半月(生まれつき大きな半月板)を合併することがあります。発育期では安静や免荷などで自然治癒することが多いため、早いうちに診断することが大切です。

「検査と診断」

レントゲンやMRIによる画像診断が大切

初期段階では、通常のX線(レントゲン)で分かりにくいためMRI検査で確定診断します。骨軟骨片が分離、遊離してくる時期はX線でも異常所見が出ますが、特殊な方向からのX線撮影も診断に有効です。画像所見により重症度が分類されます。

「治療法」

関節鏡視下でのドリリングやモザイク手術

身長が伸びている発育期で骨軟骨片が安定していれば、スポーツ活動の休止や免荷歩行などの保存的治療を選択します。X線やMRIで回復が見られれば徐々に活動を許可します。MRIで病巣部の骨軟骨片がまだ剥がれてはいない状態(グレード1~2)の場合、安静や免荷だけでも修復が期待できますが、関節鏡視下でのドリリング(障害部位に直径1mm程度の穴をいくつか掘って出血を促す方法)で癒合を促進させることも可能です。

骨軟骨片が剥がれかけている状態(グレード3)では、整復固定術を選択し、不安定な骨軟骨片を骨釘や生体吸収性ピンなどを使用して固定します。

骨軟骨片が剥がれてしまった場合(グレード4)、剥がれた骨軟骨片の状態が悪く骨癒合を期待できないと判断すればこれを取り除き、大腿骨の関節軟骨の体重のかからない部位から円柱状に採取した骨軟骨柱を移植して関節面を再建するモザイク手術や自家培養軟骨細胞移植術があります。

復帰までのリハビリやトレーニングの重要性

メディカルリハビリとアスレチックリハビリ

ACLや半月板損傷、離断性骨軟骨炎のいずれにおいても、手術後は翌日からリハビリテーション(リハビリ)が始まります。入院中に行われるのは、主に患部の局所的な回復を目指したメディカルリハビリです。膝の可動域や筋力のエクササイズ、歩行訓練などが中心となります。体幹のバランスや患部以外の筋力低下を防ぐトレーニングも重要ですが、手術部位に負担のかからないように痛みや腫れに留意しながら進めていきます。

退院後は患部の状態が回復するにつれ、ある時期からはスポーツ復帰へ向けたリハビリが必要となります。これがアスレチックリハビリです。手術からある一定期間経過したのちは、復帰を目指すスポーツの競技特性や固有な動作を踏まえて徐々にトレーニングを積んでいくことが必要です。手術部位の状況を把握しながら、患部に対して安全なジャンプの着地姿勢やターンの仕方を習得し、なおかつ全身を使ってパフォーマンスの再現に向けたリハビリを進めることが最も大切なプロセスです。そういった意味では、理学療法士やトレーナーの存在は非常に大きな意味を持ちます。

プロスポーツでは、専門的な知識を持った専属トレーナーにより患部の回復から全身のパフォーマンスの回復に向けた個別のプログラムを組んでいます。アマスポーツでは、そこまでのシステムが組まれていないことがほとんどですので不十分な状態で復帰していることもしばしば見受けられます。再受傷の確率も高くなりますので、そういった意味では患者さん自身が、しっかりと自分の病態を把握し、主治医やリハビリ担当者と相談して、必要なトレーニングを地道に積み上げていくことが大切です。

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