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年代別にみる産科・婦人科疾患の傾向・治療

広島市民病院 産科上席主任部長・婦人科主任部長児玉 順一

児玉 順一

こだま・じゅんいち。
1985 年岡山大学医学部卒、産科婦人科入局。
1991 年より岡山大学病院勤務(21 年間)。
同准教授を経て、2012 年広島市民病院着任。
現在、産科上席主任部長・婦人科主任部長・総合周産期母子医療センター部長。
日本産婦人科手術学会理事、岡山大学医学部臨床教授、広島県立大学非常勤講師など。
日本産科婦人科学会認定産婦人科専門医・指導医(日本産科婦人科学会 http://www.jsog.or.jp/)。
日本婦人科腫瘍学会認定婦人科腫瘍専門医・指導医(日本婦人科腫瘍学会 https://jsgo.or.jp/)。
日本産科婦人科内視鏡学会認定腹腔鏡・子宮鏡技術認定医(日本産科婦人科内視鏡学会 http://www.jsgoe.jp/)。
日本がん治療認定医機構がん治療認定医(日本がん治療認定医機構 https://www.jbct.jp/)。
日本周産期・新生児医学会認定母体・胎児専門医(日本周産期・新生児医学会 https://jspnm.com/)。
日本女性医学学会認定女性ヘルスケア専門医(日本女性医学学会 http://www.jmwh.jp/)。

産婦人科は、女性が人生を送る上でなくてはならない診療科だ。女性のライフステージは「思春期」「性成熟期」「更年期」「老年期」に分けられ、産婦人科医は妊娠・分娩はもちろんのこと、それ以外にこれらの各ステージに起こるさまざまな病気に深く関わっている。ここでは、広島市民病院産科・婦人科の児玉順一主任部長に、各ステージの代表的な病気や症状、治療法などについて話を伺った。

思春期(10~18歳)

思春期とは、初経(初潮)が始まってから月経が安定するまでの期間をいいます。思春期の代表的な病気には、無月経と月経困難症(月経痛)があります。初経が14歳までにみられないものを思春期遅発症と呼び、詳しい検査や、場合によっては治療が必要です。

月経困難症とは、月経期間中に起こる下腹痛および腰痛のことですが、腹部膨満感、吐き気、頭痛、疲れやすい、いらいら、憂うつなどの症状を伴うことがよくあります。思春期での月経困難症は、通常、器質的病気(子宮筋腫など)を認めない月経困難症で、初経後2〜3年より始まり、好発年齢は15〜25歳です。

原因は子宮筋の過度の収縮といわれており、鎮痛剤やホルモン剤の投与などで治療を行います。最近では、早めにホルモン剤で治療することで、後述の子宮内膜症を予防できる可能性があるといわれています。

性成熟期(19~45歳)

性成熟期では、女性ホルモンの分泌が順調になって月経周期が安定し、特に性成熟期の前半は妊娠・出産に最も適した状態になります。一方で、昨今の晩婚化に伴い、不妊治療が必要なケースも増加しています。

性成熟期の女性の70〜80%が、月経前に何らかの心身の変調を自覚します。多く見られる症状として、いらいら、のぼせ、下腹部膨満感、下腹痛、腰痛、頭重感、怒りっぽくなる、頭痛、乳房痛、落ち着かない、憂うつなどがあります。これらの症状は、月経開始の3〜10日くらい前から始まり、月経開始とともに消失します。症状が強い場合には月経前症候群と呼ばれ、日常生活に支障をきたす場合には治療の対象となり、生活指導や薬物療法が行われます。

性成熟期に認める良性の腫瘍・類腫瘍として代表的なものに、卵巣嚢腫(良性の卵巣腫瘍)、子宮内膜症、子宮腺筋症などがあります。また、性成熟期の終わり頃からは、悪性の疾患である子宮頸がん、子宮体がん、卵巣がんも少しずつ増えてきます。

以下に、代表的な疾患の症状や治療についてくわしく説明します。

子宮筋腫

子宮筋腫は、子宮の筋層にできた良性の腫瘍です。小さなものも含めると、性成熟期の女性の約30%にみられます。子宮筋腫は、性成熟期には卵巣から分泌される女性ホルモンによって大きくなりますが、閉経すると女性ホルモンが減少するため小さくなります。複数個できることが多く、大きさやできる場所によって症状が異なります。

主な症状は、過多月経(月経量が多くなること)、それに伴い貧血になること、月経困難症です。その他に、月経時以外の出血、腹部膨満感、腰痛、頻尿、便秘などの症状があります。不妊、流産、分娩障害などの原因になることもあります。一方で、症状がない場合も多く、小さければ治療の必要はありません。症状がある場合には治療が必要となり、治療法には手術療法と薬物療法があります。

手術は、子宮全摘術(子宮をすべて摘出)と子宮筋腫核出術(筋腫だけを摘出し子宮を残す)があります。将来的に子どもが欲しい人や、子宮を残したいと強く希望する人には後者の手術を実施します。ただし、小さな筋腫は摘出が難しく、数年後に子宮筋腫が再発することがあります。最近では、開腹手術よりも腹腔鏡手術(お腹の壁に小さな孔を4か所ほど開け、内視鏡と呼ばれるカメラをお腹の中に挿入し、内視鏡と接続されたモニターに映ったお腹の中の映像を見ながら行う)が一般的になってきましたが、大きさや個数によっては腹腔鏡手術が難しい場合もあります。

子宮筋腫を根本的に治す薬は今のところありませんが、薬で一時的に子宮筋腫を小さくしたり(半年の使用で体積が約45%減少)、症状を軽くすることは可能です。薬の治療では、偽閉経療法(月経を止める治療)が行われます。以前は、点鼻薬(鼻からのスプレー剤)と注射薬(皮下注射)の2種類でしたが、最近、内服薬が使えるようになりました。この治療では、女性ホルモンの分泌が減少するため更年期の症状が出たり、骨量(骨内のカルシウムなど)が減少するため、使用期限が半年以内と決められています。治療を中止すると元の大きさに戻るため、手術前の一時的な使用や、閉経が近い年齢の方などの一時的な治療として行われています。

その他の治療法として、子宮動脈塞栓術(子宮動脈〈子宮を栄養する血管〉をカテーテルを用いて塞栓物質で人工的に塞ぐことで、腫瘍への栄養供給を止める)があり、症状改善率は80〜90%とされています。

卵巣嚢腫

卵巣腫瘍(卵巣に腫れが生じた状態)は、良性、境界悪性、悪性(卵巣がん)の3つに大別され、良性のものの多くは卵巣にできた袋の内部に液体の貯留があり、これを卵巣嚢腫と呼びます。卵巣の片側に発生し(両側に発生することも)、女性の約5%程度に発生するといわれています。

卵巣は骨盤の奥深いところに位置するため、卵巣が多少腫れてきても症状はありませんが、腫大した卵巣嚢腫による重みで、隣接する卵管と一緒に子宮の根元でねじれてしまった場合には、急激な腹痛が生じ(茎捻転)、その場合には緊急手術が必要となります。

いろいろなタイプの卵巣嚢腫がある中で、最も多いタイプは成熟嚢胞性奇形腫と呼ばれています。袋の中には皮脂、髪の毛、歯・骨の成分などが入っており、これは卵子が単独で増殖することで発生します。他に、漿液性嚢腫(さらさらした液体が溜まる)や粘液性嚢腫(ねばねばした粘液が溜まる)などがあります。粘液性嚢腫は非常に大きくなることがあり、お腹が膨らんでくることもあります。

治療は手術療法となり、核出術(嚢腫だけを摘出)と卵巣を嚢腫ごと全摘する方法がありますが、多くの症例で腹腔鏡手術が可能です。

子宮内膜症・子宮腺筋症

子宮内膜症とは、子宮内膜(子宮の内面を覆う組織)に似た組織が、子宮の内面以外の場所(卵巣、骨盤腹膜など)にできて増える病気で、性成熟期女性の約10%に発生するといわれています。

子宮内膜症では、子宮内膜と同様に女性ホルモンにより周期的に増殖し、月経と同じように出血します。最もできやすい場所は卵巣で、卵巣の中に出血が起こり、徐々に腫れていきます。中身は古い血液で、チョコレートを溶かしたような液体が溜まるため卵巣チョコレート嚢胞と呼ばれています。また、子宮周囲の骨盤腹膜にも好発します。

代表的な症状は、月経困難症、慢性骨盤痛、性交痛、排便痛などです。また、不妊の原因になることも分かっているため、未婚の方に見つかった場合には、早い時期から適切な治療が必要となります。また、卵巣チョコレート嚢胞は卵巣がんのリスク因子になることも分かっています。

子宮腺筋症とは、子宮内膜に似た組織が子宮筋層内にできたものをいい、月経痛、過多月経、骨盤痛などが見られます。

子宮内膜症や子宮腺筋症の治療には、薬物療法と手術療法があります。薬物療法としては鎮痛薬のほかにホルモン療法が行われ、手術療法としては妊娠を望む場合には病巣部のみ摘出する手術、望まない場合には根治手術を行います。

悪性疾患(子宮頸がん・子宮体がん・卵巣がん)

昨今、いずれのがんも罹患数・死亡数ともに増加傾向にあります。「罹患数」は子宮体がん・子宮頸がん・卵巣がんの順で、「死亡数」はその逆の順で多くなっており、子宮体がんは治りやすく、卵巣がんは治療が難しいがんといえます。

子宮頸がんは検診により前がん病変で見つかることが多く、子宮頸部の局所切除(子宮頸部円錐切除術)で治療ができ、将来的な妊娠分娩も可能です。

子宮体がんは月経時以外の出血やおりものが、がん発見の大きな手がかりとなります。普段とは違う出血がある場合には、早めに検査を受ければ初期段階での発見が可能です。治療は子宮摘出が基本となりますが、ごく初期の場合には、ホルモン療法で子宮を温存する治療が可能な場合もあります。

卵巣がんは進行が早いのが特徴で、お腹の中にがんが散らばった状態(がん性腹膜炎)で発見されることも珍しくありません。治療は、手術と抗がん剤の組み合わせが基本になります。最近では分子標的薬も使用可能となり、治療成績が上がっています。

周産期

2019年の人口動態統計の年間推計では、国内の出生数が86万4000人と発表されましたが、前年比から約6%減と急速に減少し、初めて90万人を下回って少子化が加速しています。妊娠・出産は病気ではありませんが、妊娠や出産時にはさまざまなリスクを伴うこともあり、近年の妊産婦の高年齢化や背景の多様性に伴って、ハイリスク妊娠が増えています。

ハイリスク妊娠とは、妊婦や胎児のいずれか、または両者に重大なトラブルが起こる可能性が高い妊娠をいいます。「心臓病・糖尿病・腎臓病など何らかの病気を持っている」「前回の妊娠・出産に異常があった」「胎児に何らかの異常を認める」「多胎妊娠」「妊娠高血圧症候群(妊娠時に高血圧を発症した場合)」「切迫早産」「羊水量 が多すぎる。または少なすぎる」「前置胎盤」などがあげられます。ハイリスク妊娠は、妊娠中の経過だけでなく、出産時にもトラブルが起こる可能性が高いので注意が必要です。県内には、これらのハイリスク妊娠に対応できる「総合周産期母子医療センター」が広島市民病院と県立広島病院の2か所、「地域周産期母子医療センター」が広島大学病院など8か所あります。

総合周産期母子医療センターは、「母体胎児集中治療室(MFICU)を6床以上、新生児集中治療室(NICU)を9床以上持ち、相当規模の母体・胎児集中治療管理室を含む産科病棟および新生児集中治療管理室を含む新生児病棟を備え、常時の母体および新生児搬送受け入れ体制があり、ハイリスク妊娠に対する医療および高度な新生児医療等の周産期医療を行うことができる医療施設」をいいます。

地域周産期母子医療センターは、「総合周産期母子医療センターに準ずる産科および小児科等を備え、周産期に関わる比較的高度な医療行為を行うことができる医療施設で、総合周産期母子医療センターを補助する施設」をいいます。日本は、諸外国と比較して最も安全なレベルの周産期体制を提供しており、かかりつけクリニックと周産期母子医療センターが連携して安全な妊娠管理や出産に臨んでいます。

更年期(46~55歳)

閉経前後の5年間が更年期にあたります。この期間に現れるさまざまな症状を更年期症状と呼び、これらの症状が日常生活に支障をきたす場合、更年期障害といいます。よく見られる症状としては、肩こり、疲れやすい、頭痛、のぼせ、腰痛、汗をかく、不眠、イライラ、皮膚掻痒感、動悸、気分が沈む、めまいなどがあります。薬物療法として、ホルモン補充療法や漢方療法などが行われます。

老年期(56歳~)

加齢を背景として起こるものとして、骨盤臓器脱があります。骨盤臓器脱とは、子宮の下垂・脱出(子宮下垂・脱)とともに、膣壁がゆるんで、その奥にある膀胱や直腸が下垂・脱出した状態をいいます(膀胱瘤、直腸瘤)。入浴中などに股の間にピンポン球のようなものが触れたり、歩行時に股の辺りに何かが下がっているような違和感があります。

朝は症状が少なく、夕方以降に症状が出やすいのが特徴で、進行すると排尿障害や排便障害が出ることがあります。加齢以外に、出産、肥満(腹圧がかかる)、便秘、重いものを持つなどが原因といわれており、長期的に見れば、ほとんどの場合でゆっくり進行していきます。リング状のペッサリーを腟内に挿入して子宮を正常の位置に押し上げる方法や、手術療法が行われます。

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