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不妊治療の現状と最新の動向――治療のゴールは「妊娠・出産が次世代へつながる」こと

県立広島病院 生殖医療科 主任部長原 鐵晃

原 鐵晃

はら・てつあき。
1954 年生まれ。
1980 年広島大学医学部卒。
1988 年米国コロンビア大学留学。
1999 年広島大学病院周産母子センター准教授、2007 年県立広島病院生殖医療科主任部長。
不妊症について広く知ってもらうため、要請があれば講演も積極的に引き受けている。
日本産科婦人科学会認定産婦人科専門医。
日本生殖医学会認定生殖医療専門医。
日本人類遺伝学会認定臨床遺伝専門医。
日本産科婦人科内視鏡学会認定腹腔鏡・子宮鏡技術認定医(日本産科婦人科内視鏡学会 http://www.jsgoe.jp/)。

2017 年の出生数は94 万6065 人。人口減少が続く中、出産可能年齢の女性も減っているが、同年に不妊治療の一つである体外受精で生まれた子は、5万6617 人(日本産科婦人科学会調べ)で過去最多を更新した。これは、出生児16.7 人に1人の割合。生殖補助医療の進歩とともに、不妊治療への関心や意欲が高まり、社会的支援がその要因とみられる。不妊治療の最新の動向について、県立広島病院生殖医療科の原鐵晃主任部長に話を伺った。

妊娠には適齢期がある

不妊とは、妊娠を望んで性生活を継続しているにもかかわらず、一定期間(1年間)妊娠しない状態をいいます。不妊・不育の原因は、女性では子宮、卵管、卵巣機能の問題のほか、年齢が大きく関わっています。また、内科的な疾患(糖尿病、高血圧など)も妊孕性(妊娠しやすさ)に影響します。男性では、精子をつくる機能の低下が最も問題となります。

「妊娠には適した時期がある」ということは少しずつ浸透してきましたが、一方で、「子どもを望めばいつでも妊娠できる」と考える人も少なからずいます。しかし、年齢が上がると卵子も歳をとり、35歳を過ぎた頃から妊娠しにくくなります。

卵巣内にある卵子の数は、女性が生まれたときには約200万個ありますが、排卵が起こり始める思春期頃には約30〜50万個まで減り、その後も日々減少していきます。加齢とともに質も低下し、さらに、妊娠の妨げになる婦人科疾患や内科疾患のリスクも高くなります。子どもを望むなら、1年以上妊娠しない場合(35歳以上の方なら半年以上)は、妊娠しにくくなる要因がないか検査を行うことが大切です。

不妊治療の3つの方法——「性交指導」「人工授精」「体外受精」

不妊治療は、①排卵を予測して性交の時期を指導する方法、②人工授精(排卵時期に合わせて、精子を直接子宮内へ注入する)、③体外受精(卵子と精子を体外に取り出して受精させ、受精卵〈胚〉を子宮内に戻す)の3つに大別できます。①と②は妊娠しやすい状態をつくり出すようにしますが、あくまでも、精子と卵子が体内の卵管で受精することをめざすものです。③の体外受精は、①②と比べて受精する確率はかなり高いですが、非生理的な部分があるため細心の注意を払わなければなりません。

体外受精には、一般的な方法(成熟した卵子を採取して培養液に移し、調整した精子を近くに置いて受精を待つ)と顕微授精(一つの精子を選んで、卵子に細い針で注入して受精させる)があります。後者は、通常の方法では受精しないケースや精子の濃度や運動率に問題があるなど、男性側に原因がある場合が対象になります。体外受精は、卵巣刺激と採卵を伴うため女性の負担が大きくなります。複数個の卵胞(卵子の入っている袋)を育てるため2週間ほど注射をしますが、その間は頻繁に通院していただき、卵胞の大きさやホルモンの値をチェックします。

現在では、10年前と比べて働く女性が明らかに増えているため、仕事と治療の両立が難しいケースが増えてきました。また、仕事を優先すると、良いタイミングで卵子が採取できないという事態も生じます。

年齢が高い人に「体外受精」が増えている

日本産科婦人科学会の資料では、2017年の体外受精のための採卵回数は約24万5000回と、17年ぶりに前年より減少しています。これは、これまで治療を受けていた世代(いわゆる団塊ジュニア世代)が、治療を終える年代にさしかかった影響と考えられます。一方、体外受精で誕生した子は出生児の16.7人に1人と、割合から見れば増加しており、必ずしも特殊な治療ではなくなっているといえます。

どの治療法を選択するかは、患者さんの状態で決まります。子宮、卵巣、卵管などについて必要な検査を行いますが、ホルモン検査や超音波検査で、卵巣の中の卵子の数を評価することは特に大切です。個人差はありますが、年齢を重ねると出産につながる卵子が減り、受精しても育たない可能性があることは否めません。

しかし、患者さんが「35歳を過ぎたから直ちに体外受精」ということではなく、「自然妊娠できるならそれが望ましい」と私は考えており、そうした患者さんにも十分なサポートを行っています。ただ、検査結果を基にその方にとっての最適な不妊治療を選んだ結果として、「年齢が高い人に体外受精が増えている」ことも事実です。広島県や、県内の各市町では体外受精などに治療費助成がありますので、治療しやすくなっているという一面もあります。

不妊治療全般にいえることですが、「職場をはじめとする社会全体に、治療への理解と認知が広がること」がとても重要です。不妊治療の増加を受けて、厚生労働省も仕事と不妊治療の両立支援を企業に働きかけています。

体外受精には「多胎リスク」や「未知の部分」がある

体外受精では、妊娠率を高めるために複数個の受精卵を子宮に戻した場合、多胎(双子、三つ子など)のリスクが生じます。多胎は、早産の可能性が増えたり、脳性麻痺の発生率が大幅に高くなったりします(下表)。

こうしたリスクを避けることはとても重要で、当院の場合、子宮内に戻す受精卵は患者さんの年齢や治療経過にもよりますが、基本的に1個としています。また、夫婦のどちらかに染色体の形に変異があれば、「受精卵になったとしても育たない」「育っても着床しない」「着床しても流産してしまう」ことが多くなります。そうした習慣性流産の患者さんの場合は、着床前診断を行って流産しにくい受精卵を選んでいます。

受精卵は、細胞分裂しながら発育していくのですが、新しい技術のタイムプラス培養器を用いると、培養期間中は継続して撮影を行い、その成長過程を動画で観察することができるようになりました。これを活用することで豊富に情報を得ることができ、妊娠の可能性がより高い胚を選ぶことが可能になっています。

体外受精では、1978年に世界で最初の赤ちゃんが生まれ、その子は成長して自然妊娠し出産したという嬉しい報告があります。その女性は現在41歳で、体外受精で生まれた人の中では最高齢ですが、これから先のことはわかりません。そのため、体外受精はそうした「未知の部分を含んだ医療」ということを意識しておく必要があります。

不妊治療は妊娠・出産がゴールではなく、生まれた子が成長し、次の世代の子を出産できるかどうかまで慎重にみていくことが大切です。

不妊症で受診するにあたって

不妊症は、一般の病気と同じように不妊という主訴に対して検査、診断、治療を行います。しかし、「不妊症で受診する」ことは、一般の病気のようにまずかかりつけ医にかかり、必要なら専門の病院へ紹介してもらうという、「通常の病診連携システムとは少し異なる」ということを認識しておいていただきたいです。

不妊症の治療施設は、①人工授精までの一般不妊治療を行い、体外受精は行っていない施設、②体外受精・胚移植も行っている施設、③体外受精・胚移植とともに、子宮筋腫や子宮内膜症など不妊や不育に関連する妊孕能を改善するための手術も行っている施設、の3種類に分けられます。②③の体外受精・胚移植は、日本産科婦人科学会に登録された施設で行われます。広島県内で②に該当するのはクリニック・医院の8施設、③は県立広島病院のみとなっています。

いずれの施設でも受診は可能ですが、施設によって治療方針や方法が異なります。診察を受け、もし必要なら体外受精も考えておられる場合は、初めからそうした専門の治療ができる施設を選択肢の一つにされるのもいいかもしれません。35歳以上かどうかなど年齢にもよりますが、一般不妊治療を半年〜1年続けても妊娠しない場合には、紹介先をたくさん持っていて、選択肢を広げてくれる施設を受診されるのが良いのではないでしょうか。

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